IGDAのTGSスカラーシップ2016に参加したジョアンナ・リーと申します。私は南カリフォルニア大学の2年生で、主専攻はコンピュータサイエンス(ゲーム)、副専攻は映画学です。
私はこのプログラムを知るや否や、すぐに申込みをしました。というのも、私は日本のポップカルチャー、たとえばゲーム、アニメ、文学、ファッション、漫画などに多大な影響を受けて成長してきたからです。また、自分自身ゲーム開発者をめざすうえで、日本のエンタテインメント産業の仕組みや、コンテンツ制作の仕組み、どんな人々がそこで働いているか、そして私の経験に多大な影響を与えてきた人々がいったいどんな人たちなのか、とても関心がありました。そしてTGSに参加することで、私がそれまでプレイヤーとしてしか係わってこなかった世界の舞台裏が体験できるのではないかと考えました。私はそこでとても才能があり、情熱に満ちていて、異なる言葉を話し、異なる経歴を持つたくさんの人々とお会いしました。その一方で、似たようなゴールや思い、関心を共有することができました。たくさんの人々とお会いし、交流して、刺激を受けることができて、とても楽しかったです。
スカラーシップ初日、私たちは3つの異なる企業を訪問しました。DeNA、たゆたう、そしてAimingです。そこで非常に興味深く、ためになる経験をつむことができました。DeNAでは、実際にリリースされているゲームのキャラクターデザインがどのようなプロセスを経て決められたか、レクチャーを通して知ることができました。私たちはまた、ボードゲーム(=双六)のデザインにも挑戦しました。私はこのゲームについてまったく知りませんでしたが、同じグループになったスカラーたちが、どのようなゲームメカニクスを加えたら良いか。そしてゲームバランスのとりかたや勝利条件、そしてトークンなどのアイテムを使って、どのようにおもしろさを創り出していくかについて、いろいろと説明してくれました。私の日本語のスキルはあまりよくありませんが、それでも自分のアイディアを表明したり、他人のアイディアに助言することができました。この共同作業を通して、私は異なる経歴やスキル・・・ゲームデザイン、プログラム、アートなど・・・をもった人々が、どのようにして一つのチームとなり、問題解決に当たっていくべきか、学ぶことができました。
私たちはそれからたゆたうに向かいました。たゆたうではアメリカ人のリードゲームデザイナーの方が日本と西洋のゲーム会社の違いについて、いくつか知見を共有してくれました。そしてAimingでは、ゲームデザイナーの方と1対1で話をする機会がありました。その方は私が制作しているゲームやポートフォリオに対して、プロのゲーム開発者の立ち場から、有益な助言やコメントをたくさんくださいました。その方のコメントは私が学校でこれまで習ってきた、プレイヤーがゲームプレイを通して得る感情や、創造性、芸術性といった事柄とはまったく違っていて、商業ゲームとしての立ち場からの意見でした。そのアドバイスを聞いて、私はこれはプロのモノの見方だと思いました。そしてマーケティング、利益、似たようなゲームとの差別化といった、これまで大学でのカリキュラムでは得られなかった分野についても、深く考える必要があると感じさせられました。
続く3日間で私たちはTGS2016のビジネスデイと一般公開日の両方に参加しました。ざっくりといって、それらは素晴らしく、刺激的で、興奮し、魔法のような体験でした。これまで参加したアメリカ、中国、カナダの巨大なゲームカンファレンスと比べて、TGSは非常に独特な雰囲気があり、他と対照的でした。日本のゲーム業界は非常に長い歴史があるので、ユーザーの多様性が非常に広いように感じられました。男性だけでなく女性むけのゲームがあったり、非常にニッチでユニークなゲームユーザーを対象にしたゲームがあったりしました。
さまざまなブースがある一方で、私たちはTGSの期間中にさまざまな業界人のトークセッションやイベントなどに参加することもできました。
その中でももっとも印象的だったことは、何人かの大企業の方から、自身のVRゲームやモバイルゲーム市場に関するコメントを聞いたことでした。会場でVRのブースがたくさん配置されていたことにも驚かされました。VRやARは私にとって珍しいモノではありませんでしたが、企業がこれほど多くの注意を払っていることに驚かされました。というのもVRやARはまだ始まったばかりで、市場は小さく、成熟していないからです。私自身もあまり注意をはらっていませんでした。
その一方で、これだけ多くのVRブースが会場にあるということは、VRゲームの体験が、それ自体は非常に短いものであっても、来場者に対して「未来体験」を提供する上で非常に適しているのだろうな、と思いました。また西洋のゲームシーンと比較して、日本のゲームシーンは中国のものと非常に近しいように感じました。たとえばモバイルゲーム市場が非常に一般的であったり、人気のあるゲームジャンルだったり、企業のマーケティング戦略だったり、という点においてです。またTGSで私ははじめて、東南アジアのゲーム産業について知ることができました。それまで東南アジアのゲームを遊んだことはありませんでした。日本と中国の文化的な結び付きについて考えることは非常に興味深いことでした。
昼食でいただいたお弁当はたいへん美味しいものでしたが、それ以上に昼食の時間でゲーム業界の方々と直接お話できたのは、以上に有益な体験でした。またTGSを通してのハイライトとして、日本ゲーム大賞の発表授賞式がありました。そこで私はさまざまな伝説的なゲームクリエイターを目の当たりにすることができました。そこでは「ライフイズストレンジ」や「ウィッチャー3」といった欧米のゲームについて、さまざまなコメントがなされていて、非常に興味深く感じました。日本と欧米の両方のゲームを遊んでいる一人として、私は両方の文化はまったく違うものの、お互いのゲームが双方に強く影響を与えているのだなと思いました。
アメリカの状況と比べて、TGSのインディゲームシーンは少々おとなしく、小規模なように感じました。しかし、それでもセンスオブワンダーナイトは非常に楽しいものでした。私は会場で世界中の野心あふれて興味深いインディゲーム開発者から声をかけられました。私は日本のインディゲーム開発社が作った、もっと興味深くもっとおもしろいゲームを、もっとたくさん見たいと思いました。
ロサンゼルスにもどったら、私はすぐに大量の課題に押し流されてしまい、私の考えについてまとめる時間があまり持てないでしょう。そのため、5日間の忘れがたい東京への旅行で得たあれこれについて、ここでまとめておきたいと思います。
IGDAのTGSスカラーシップに参加できたのは名誉なことでした。このプログラムのためにさまざまな骨を追ってくださった、小野さんと尾形さん、そしてこの素晴らしいプログラムを実現させるために協力していただいたすべての方々に対して、改めて御礼を申しあげます。また、さまざまな考えや夢、情熱について、私に語ってくださったすべての人に感謝します。彼らはまた、日本のエンタテインメント産業における文化的、社会的な分析や、ゲームユーザーの概要について語ってくださいました。私は彼らから地位や肩書きが重要なのではないこと。私自身もそうした地位や肩書きにおさまって、狭い視野で物事を見ることがないように注意することの重要性について学びました。私の年齢について誰も気にせず、どんな努力をしているのかについて関心があること、そして自らも情熱をもって夢を追いかけている人がたくさんいたことも印象的でした。彼らは私のモチベーションを非常に高めてくれました。そして私もそうした人物になりたいと思ったこと、そして思い立ったが吉日ということを改めて感じました。
結局のところ、未来はここにあるってことですよね。このすばらしい時代に生きている幸運に感謝すると共に、このすばらしいチャンスを活かしたいと思います。