TGS 2024 スカラーシップ体験レポート⑦川津琢音

始めまして。大阪大学3年生の川津琢音と申します。

普段大学では物理学について学んでおり、学外で個人的にチームを組みゲーム制作を行っております。

今回、IGDA JAPAN様のスカラーシップに採択していただき、東京ゲームショウ(TGS) 2024に作成したゲームの出展を全4日間させていただきました。

今回、TGSスカラーシップに参加し最もよかったことは、自身のゲームを多くの人にプレイしてもらったことです。普段から知り合いにテストプレイを頼むことはありましたが、これほど幅広い世代の人に、これほど沢山遊んでもらったことは無かったので、大変勉強になりました。

今回試遊を観察する中で、レベルデザインについてある仮説を得たため、この場をお借りしてまとめさせていただきます。

出展作品

今回私が展示したのは「Out of Skull」という頭を投げるガイコツが主人公のパズルアクションゲームです。現在α版を無料で公開しています。

TGSではIGDA JAPANブースとKONAMIブースの2か所で展示をさせて頂きました。KONAMIブースでは、IGC学生選手権というコンテストの最優秀賞受賞作品として展示していただき、接客も行いました。

今回、私は本ゲームについて2種類のビルドでの展示を行いました。IGC学生選手権に出品した全24ステージのビルドと、その中から8ステージを選出し、再構築した展示用ビルドです。全24ステージのビルドでは、

  • イベントでの試遊には長すぎる
  • 自分の中で「このステージは面白い」と感じられる、遊んで欲しいステージにたどり着くまで時間がかかり過ぎる
  • 時間で試遊を区切った場合、プレイする人によってクリアするステージ数が異なるため、体験が大きく変わり過ぎる

といった懸念があったため、展示用ビルドを別に用意しました。

発生した事象

一日目と二日目は、KONAMIブースには全24ステージのビルドを、IGDA JAPANブースには展示用ビルドを展示していました。

しかし二か所のブースで試遊を観察するうちに、「KONAMIブースで遊んでいる人の方が楽しそうだ」ということに気づきました。KONAMIブースではほとんどの人が10分間の試遊の時間いっぱいまで遊んでいるのに対して、IGDA JAPANブースでは同じく平均10分で終わる試遊を、すべて遊ばない人が多くいました。

この状況を受け、私は急遽ビルドを変更しました。三日目以降、IGDA JAPANブースに展示するゲームも全24ステージのものに差し替え、プレイ時間を8分に制限することで展示に対応しました。

その結果、プレイする人の多くは時間いっぱいまで遊んでくれるようになりました。

原因分析

今回このようなことが起こった原因として、展示用ビルドが「ゲームの面白さを伝えようとし過ぎた」ことが考えられます。

展示用ビルドは「短時間でこのゲームの面白さを伝えよう!」と考え、自分が面白いと感じるステージを選出していました。すなわち、パズルゲームの面白さであるひらめきを大きく感じられるステージを選抜したのです。

しかし、これらのステージのプレイには、解法をひらめくまで大きなストレスが伴います。このようなステージのみで構成されたビルドでは、プレイヤーは常に頭を使い、強い負荷がかかった状態になります。その結果、解法をすぐに思いつけなかったプレイヤーが負荷に早期に離脱し、最後までプレイする人が少なくなったと考えられます。

逆に24ステージのビルドには大きなひらめきを要さないステージも多く含まれています。しかしこれらのステージは、プレイヤーに「クリアした!」という達成感を与える役割を担いました。それが結果としてステージ内にある高難度ステージをクリアするモチベーションとなり、最後までプレイする人の割合が増加したと考えられます。

また、展示用ビルド制作時に懸念した「時間で区切ったらプレイヤーの遊ぶ範囲がバラバラになるかも」という点についても問題はありませんでした。ほとんどの人は、全24ステージ中、11~12ステージ目で制限時間を迎えました。これについては、ゲームジャンルがパズルであったことが大きく関係していると考えられます。反射神経が重要なアクションゲームとは異なり、新規概念の理解、応用が重要なパズルでは過去のゲーム経験が生かせる部分が少なく、それほど大きな個人差が出ないと考えられます。

今回TGSの来場者の反応からレベルデザインについて新たな仮説を得ることが出来ました。しかしこれはあくまで仮説であるため、今後のテストプレイや展示会において、何らかの統計的データを取って検証していきたいと考えています。