IGDA日本 SIG-地方創生のセミナーが2023年2月3日(金)にオンサイト・オンラインでハイブリッド開催され、会場には49名、オンラインでは35名の参加者が集まりました。今回はeスポーツによる事業例やゲーム企業の誘致を目指す自治体の取り組み、ゲーミフィケーションによる地域活性化策などが紹介されました。また、eスポーツで地域を活性化するためのアイデアをパネルディスカッション形式でお伝えしました。
開催の背景
近年、日本各地でゲームやeスポーツを活用した、地域活性化イベントや産業振興策が実施されています。IGDA日本の地方創生に関する専門部会であるSIG-地方創生は、こうしたゲームに関連した地域活性化のノウハウや、地方創生の取り組み事例をゲーム業界内外に共有するとともに交流の場を提供することで、新たな取り組みを促進し、地域経済とゲーム業界の発展に寄与することを目的としています。
協賛
本セミナーは、協賛としてマップボックス・ジャパン合同会社様、会場協賛としてTUNNEL TOKYO様のご協力で開催されました。
オープニング IGDA日本、SIG-地方創生の紹介
オープニングでは、IGDA日本 理事であり、SIG-地方創生 正世話人の蛭田健司氏より、IGDA日本とSIG-地方創生の紹介が行われました。ゲームを活用した地方創生の専門部会であるSIG-地方創生はFacebookでグループを作っており、170名を超えるメンバーが参加しています。興味をお持ちの方はどなたでも無料で参加できます。(ご加入はこちらから)
講演① e スポーツがインストールされた社会がもたらす新しい価値
最初の講演では、福岡eスポーツ協会 会長の中島賢一氏が自身のeスポーツに関する幅広い活動を中心に事例を紹介し、eスポーツがもたらす社会的な価値について論じました。
中島氏は2018年に福岡eスポーツ協会を設立。2019年には世界最大級の格闘ゲームイベントEVOの日本版であるEVO Japanを福岡に誘致。経済波及効果は約11.7億円に達しました。また、九州に”ゆかり”があることが参加資格であるeスポーツ大会「Q1スーパートーナメント」を開催。9歳から62歳まで幅広い年齢層の参加者を集めました。
中島氏が所属するNTT西日本は、eスポーツを社会実装することで地域課題を解決するという文脈でeスポーツに取り組んでおり、神戸市などと連携協定も締結しています。
福岡eスポーツ協会はビジネスドリブンで動いており、主催する福岡eスポーツフェスタは産業振興を目的としています。ビジネスマッチングを50件実施し、20件の成立を実現するなど成果を挙げています。
中島氏はeスポーツのもたらす価値として、観光資源の魅力向上、教育、レジャー、国際交流、医療、自立支援など、様々な効果を紹介しました。このように、eスポーツを社会にインストールして生まれる世界では、持続可能な開発目標(SDGs)の17の目標のうち9つが実現できるとして講演をまとめました。
講演② IT・デジタルコンテンツ産業の企業誘致活動について~岡山に恋してみられ~
岡山市役所からは守安正和氏が登壇し、岡山市の魅力や企業誘致の取り組みを紹介しました。
岡山市には岡山城や、日本三名園のひとつである後楽園といった観光名所があり、白桃、マスカット、ピオーネといったフルーツでも有名です。中四国広域にわたる交通の要衝であり、晴れの日が多い、地震が少ないといった特性もあります。また、人口10万人あたりの大学・短期大学数で日本第2位、学生数で第6位という若者が集まる街でもあります。
岡山市はIT・デジタルコンテンツ分野の人材育成と企業誘致に注力しており、市内の関連専門学校4校と連携協定を締結しています。しかし、ゲーム制作等を教えることができる講師が不足しているため、講師招聘に係る費用を支援する制度を導入しています。また、岡山市への立地企業に対しては、設備補助金と人材確保奨励金を支給するとしています。
講演③ WORK in AMAKUSA -新しいオフィスのカタチ-
天草市役所からは嶋﨑健介氏が登壇し、自然や食を楽しめるワークライフバランスの取れた天草市の生活と、充実した企業立地支援策を紹介しました。
天草市は福岡から飛行機の直行便があり、35分でアクセスできます。また、国内最大級の幻の地鶏である天草大王や、豊洲市場で最高値付近で取引される車エビなど、食が豊富です。世界でも有名な野生イルカの生息地や、絶景スポットも数多くあり、豊かな自然に恵まれています。
しかし、そういった豊富な資源がありながら、少子高齢化が進んで人口の減少が続いており、産業全般の担い手不足など、大きな地域課題となっています。そこで市の政策として、子育て環境の充実や、生涯学習・生涯スポーツの推進、多文化共生の地域づくりなどが行われており、住みよさランキングの安心度で全国2位になるなど、成果がでています。
また、天草にいながら稼げる産業の創出を目指し、デジタル人材の育成も行われています。企業誘致は市の補助と県の補助との併用が可能で、最大3年間は家賃が実質無料になるなど、大胆な補助施策が実施されています。さらに、令和4年度からはデジタルアートの島創造事業がスタートしており、ゲーム・アニメ会社の誘致にも本格的に取り組んでいます。
講演④ スポーツ×デジタルマップによる 新しい地⽅創⽣
マップボックス・ジャパン合同会社からは八木英訓氏が登壇し、デジタルマップを活用した新しいスポーツ応援体験として、ツール・ド・東北2022の実例を紹介しました。
マップボックスはクリエイターとエンジニアのための地図開発プラットフォームを提供している企業で、日本支社であるマップボックス・ジャパンは2020年に設立されました。地図を使った事業ノウハウをグループ内で蓄積しており、成功事例をお客様に提供しています。
マップボックス・ジャパンは、東日本大震災の復興支援を目的としている自転車イベントであるツール・ド・東北にリアルタイムマップを提供し、臨場感のある応援体験を創出しました。3D地図上にライダーがリアルタイムに表示され、リプレイにも対応。ライダーのライブカメラであたかも自分が自転車に乗っているかのような体験も可能にしています。応援ボタンによって花火があがる演出もあり、オンライン上の応援が可視化されることで一体感を得られる仕組みになっています。これらの仕組みによって、リアルタイムマップの閲覧数は8,724回に達しました。
八木氏は、こういったソリューションは現地応援の旅行者、ライダー、リモート応援者、地域住民のいずれにもメリットがあり、地域への貢献ができるとして講演をまとめました。
講演⑤ セガ エックスディーによる地域振興
蛭田健司氏が再び登壇し、セガ エックスディー社のビジネスプロデューサーとして地域活性化の取り組みを紹介しました。
セガ エックスディー社はセガと電通の合弁会社でゲーミフィケーションを事業の柱としています。また、エンタテインメントが課題解決に役立つという社会認識を作り、マーケットをけん引するような存在を目指しています。ゲーミフィケーションはゲームのメカニズムにより、ついつい遊んでしまう、ついつい続けてしまうような「衝動」を生み出すことができるため、それによって課題解決を実現します。
地域振興の事例としては、AR謎解きラリーによる文化財への興味換気・保護意識の醸成や、ARスタンプラリーによる観光振興、間違いさがしゲームの活用による行政へ理解促進、エンタメ避難訓練による若者を巻き込む防災、デジタルスタンプラリーによるコロナ禍でも安全な集客訴求、地域プラットフォームによる地元への愛着度向上・定住促進と、幅広い地域活性化策が紹介されました。
ゲーム業界と同じく、ゲーミフィケーション分野も右肩上がりの成長を続けており、セガ エックスディー社においても積極的に人材採用が行われています。奇麗なオフィス、メンバーがお互いに助け合う雰囲気の良さなど、働きやすい環境であることも紹介されました。
セガ エックスディー 採用情報:https://segaxd.co.jp/recruit/
パネルディスカッション eスポーツで地域を活性化するためのアイデア
パネルディスカッションでは、まず「フォートナイト世界大会を通じて感じたこと、考えたこと」というテーマで、荒木美鈴氏から全国にある商業施設などでeスポーツチームを持ったり、大会が開催されたりすると販売促進や家族で再訪率の向上が図れるなど、健全な発展が見込めるのではないかというアイデアが示されました。中島氏からも、eスポーツの親子大会によって親子の会話の質が変わった事例などが紹介されました。
続いて「eスポーツのファンを拡大するには」というテーマでは、蛭田氏からeスポーツ大会と将棋大会を併催した効果が紹介されました。eスポーツは若者に人気ですが、将棋大会は子供やお年寄りにも参加者が多く、また子供の親世代も来場します。これにより全世代が楽しめるイベントになり、それぞれのファンがお互いを学ぶことで相互理解が進んだ事例が紹介されました。eスポーツとのかけ合わせは若い人が離れている業界で特に効果が高いため、若者のアルコール離れや自動車離れなどの対策としても有効であることが示されました。
「地方で開催されるユニークなeスポーツ大会」のテーマでは、中島氏より、eスポーツイベントによる企業や地域の交流促進や、大きな広報効果が紹介されました。
最後に「子供たちが培うことができるビジネス能力」のテーマでディスカッションが行われました。中島氏から、PDCAサイクルより新しい概念であるOODAサイクルを、ゲームによって子供たちが自然に身につけている事例が紹介されました。また、蛭田氏からは問題解決能力やITリテラシーが高まること、リトライが気軽にできることで失敗を乗り越える力が身につくことが示されました。
交流会
講演の後は、会場でもオンラインでも交流会が行われ、参加者同士の交流が行われました。幅広い業種から参加者が集まっており、30分間では名刺交換も終わらないほどで、ゲームによる地方創生の盛り上がりと同様の熱気を感じさせる場となりました。
(IGDA日本 SIG-地方創生グループへのご加入はこちら。どなたでも無料でご参加いただけます)
(構成・執筆:SIG-地方創生)