立命館大学大学院映像研究科に所属しております、修士1回生の髙松美紀です。大学院では、ビデオゲームのプレイヤーが、ノンプレイヤーキャラクター(以下、NPC)に対してどのような認識を持っているか、そしてその両者の関係性とはどのようなものか、というテーマで研究を行っています。私は、現状の自分の視野を広げたいと思い、CEDECのスカラーシップ制度に応募しました。私は修士課程修了後、プランナーとしてゲーム制作に携わりながら、生涯にわたってゲームについて研究し続けたいと考えています。しかし、私は現状「プレイヤー」としてしかゲームを理解することができていません。ゲームというコンテンツ、及びそれによって生じる現象についてより客観的に理解するためには、ゲームを制作する「制作者」としての視点も必要であると思われます。そのため、ゲーム業界への就職と自分の研究に生かすべく、CEDECにおいてゲーム業界全体の現状や最先端の専門技術についての情報を得たいと考え、今回のスカラーシップ制度に応募させていただきました。
実際にCEDECでたくさんの講義を受講した結果、そこで得られた知識は予想以上のものでした。このレポートでは、印象に残った3つのセッションと、CEDEC全体の感想についてまとめさせていただきます。
まず、AIキャラクターに関しての2つのセッション「AIキャラクター事情 最前線!仮想空間(メタバース)での開拓ビジョン・取り組み・課題」と「ディープラーニングの活用:AI × キャラクターによる新しいゲームの世界」についてです。前者は、AIキャラクター、及びメタバース事業を牽引する4つの企業の代表者によるパネルディスカッションであり、後者は、ディープラーニングによるAI-NPCのセリフ生成・音声合成・モーション生成の最新技術についてのプレゼンテーションでした。パネルディスカッションでは、今後のエンターテイメントにおけるメタバース・AIキャラクターの役割や立場についての議論がなされました。人間と非人間とのコミュニケーションが当たり前になるというビジョンのもと、AIキャラクターを以て共にエンターテイメントを良くしていこうという登壇者の方々の姿勢がとても印象的でした。また、最新技術プレゼンテーションでは、AIに関する専門技術についてかなり詳細、且つわかりやすく情報をまとめてくださっており、最先端AIの仕組みや今後の展望についてよく理解することができました。どちらの講義も、自分の研究分野との関連性が強いものでしたので、AIキャラクターの社会的側面・システム的側面どちらもに関する最先端の情報を得ることができ、非常にためになりました。
もう1つの印象的なセッションは、シリアスゲームに関する研究分野の現状と海外シリアスゲームのケーススタディについてのプレゼンテーション「シリアスゲーム最新事情 ~ 一般的なゲームと相互越境する現代のシリアスゲーム」です。CEDECの講演は実際のゲーム制作技術に関するものがほとんどだと思っていたので、人文学的な研究報告があること自体に驚きました。CEDECのようなゲーム業界の一大イベントにおいて研究報告の機会があるということは、「ゲーム研究」という学問全体の隆盛にも繋がると思われるため、研究者の端くれながら嬉しく思います。このセッションにおける研究報告のフェーズでは、作品やその制作者(制作会社)を豊富に挙げてくださり、シリアスゲームムーブメントの趨勢について具体的に把握することができました。ケーススタディのフェーズでも、複数のシリアスゲームを取り上げながら、その影響力の大きさや特徴についてわかりやすく解説してくださいました。海外の作品事例を挙げてくださっていたことで、日本とは異なる「ゲームに対する捉え方」を知ることができる稀有な機会でした。
CEDEC全体の感想としましては、自分の興味関心に近い分野の講義はもちろんのこと、隣接する分野、それらを包含する業界全体の議題についてのパネルディスカッション等を通して横断的にゲーム業界全体について知ることができる、たいへん貴重で有意義な機会だったと感じています。加えて、講演後に設けられたアフターミーティングでは、他のスカラーシップ生とIGDAのメンターの方々、さらにはCEDEC登壇者の方とお話しさせていただけました。ライバルである同世代のスカラーシップ生たちのレベルの高さに焦り、ゲーム業界で活躍する先輩方からリアルな学びを得ることのできる、充実した時間でした。今回のCEDECで得た知見をまずは修士研究に活かし、その後のキャリアに繋げていきたいと思います。