香川高等専門学校情報工学科5年の真鍋悠一郎です。私が今回スカラーシップとしてCEDECに参加し、学んだこと、考えたことを書いていきます。
私がCEDECを聴講するのは今回が初めてです。これまでは、YouTube等でセッションを少し見たことがあるのみで、あまり詳しく知りませんでした。初めて経験したCEDECは、大学・有名企業所属の研究・開発者の方から個人開発者の方まで、ゲーム開発に関連する各分野のスペシャリストの方々が、開発における第一線で得た知見・経験をわかりやすくまとめ、独占的利益を度外視した発表を数多く行っている、素晴らしいカンファレンスでした。私は描画系を専攻しており、今回のCEDECでも描画系のセッションを主に聴講しましたが、どのセッションも、高度な技法を視聴者が理解しやすいように一般化して解説していたり、多大な労力と時間をかけて得られた知見を共有していたりと、私にとって非常に興味深く、新しい技術・視点を増やすことができる内容ばかりでした。
個人的に惹かれたセッションは多くありますが、中でも『ゲームプログラマのための数学の歩き方 – クォータニオンとリー群編』、『ゲームプログラマのための数学の歩き方 – デュアルクォータニオン編』、『NVIDIA Falcorで次世代品質のリアルタイム物理ベース照明を手軽に素早く検証する』、『Khronosの最新情報 – Vulkan, Vulkan Ray Tracing, OpenXR』、『モバイルで爆速なDeferred Renderingを行う方法』の5セッションが特に印象に残っています。
『ゲームプログラマのための数学の歩き方』の2編は、3D座標変換を扱ったことがある人ならほとんどが聞いたことがあると思われるクォータニオンの原理、さらにそれを発展させたデュアルクォータニオンの概論とその剛体変換への応用をわかりやすく解説するといった内容でしたが、個人的に有難いと感じた点は、後の資料公開を前提として、こういった所を押さえて学習すれば良い、というような、聴講者のその後の学習についても考えて発表されていることでした。他セッションでも同様の配慮があり、聴講者のことをしっかり考えて発表してくださっていると感じました。
『NVIDIA Falcorで次世代品質のリアルタイム物理ベース照明を手軽に素早く検証する』では、リアルタイムレイトレーシングが普及していく現在の開発環境において、エンジニアとアーティスト間での絵作りにおけるイテレーションを高速化するため、実際の絵作りに使用するレンダラからの一貫性を保ったデータ移行に関する詳細な知見が共有されており、これから業界を目指す自分にとっては、「現場において重要なこと」を知ることができた点が何より有難かったです。
『Khronosの最新情報 – Vulkan, Vulkan Ray Tracing, OpenXR』については、Khronos Groupが発表するセッションがある、という点にまず驚きました。私は主にVulkanを用いた開発をしていますが、日本語で記述された資料はまだ少なく、英語の最新情報を追いかける難しさに直面していたので、同時通訳の方がいらっしゃる状態で最新情報について知ることができたこのセッションは素晴らしかったです。
『モバイルで爆速なDeferred Renderingを行う方法』では、市場が大きく、今後Vulkan APIが主流となっていくと考えられるモバイル環境において、遅延レンダリングを大きなメモリ転送を行うことなく実現する手法(Tile-Based Rendering)について、Vulkan APIによる実現方法とともに解説されていました。専門的な内容で、難易度も激辛と設定されていましたが、そもそもここまで細かな領域について発表してくださるセッションがある点に驚きました。内容も興味深く、自分自身で試してみたいと考えています。
総括すると、私にとって非常に革新的な経験でした。ここまでの規模で詳細に技術共有を行ってくださるとは知らず、CEDEC全体を通して、「現場の生きた知識」を得られたと感じます。何か技術を学ぶとしても、その技術の存在・実情について知らなければ、そもそも学ぶことができません。そういった点で、CEDECは私自身を1つ先のレベルへ引き上げてくれるような経験だったと思います。
最後に、今回私が参加したスカラーシップ制度についてですが、各セッションについて志を同じくする方々と感想を共有し、実際に勤務されている業界の方のお話なども聞くことができました。私のような学生で、ゲーム業界に興味がある方はぜひ参加を検討していただきたいです。貴重な経験でした。
ここで得た学びを、必ず自分の力にしていきたいと思います。
香川高等専門学校情報工学科5年 真鍋悠一郎