皆さんはじめまして。
株式会社セガのテクニカルアーティスト、麓と申します。
過去にIGDA日本のSIG-TAの世話人をしていたり、現在はCEDECの運営委員等に参加しつつ、日本のゲーム業界におけるテクニカルーアティストの認知と地位向上を志し、日々勤しんでいます。
この度は、以下『マンガとイラストでわかる!GPU最適化入門』の書評を依頼いただきましたので、書いてみました。
もともと気になっていて、購入する予定だったことも先に記しておきます。
まず、このタイトル『マンガとイラストでわかる!GPU最適化入門』で得られる第一印象は「マンガって言ってもエンジニア(プログラマー)向けの本でしょう?」ではないでしょうか。しかし実際に読了してみるとアーティストTA(例えば私のような)にとっても非常に為になる本(むしろ最適化された本)だと思いましたので、紹介させていただきます。
前半ではGPUがやっている仕事、具体的にグラフィックがどういう処理を経て描画されているのかについて説明されています。例えば頂点から三角形の描画、画面へのアウトプットのGPUパイプラインや、座標空間、他にもDrawコールに関して等です。
私もTAになる過程でこれらについてを色々調べたり、周囲のプログラマーに教わったりして学び、シェーダを自分で書くなどして得た知識をいろんな場で講演していました。
※参考『SiggraphAsia 2009 Try Real-time Shader for Artist』
その頃はアーティストが触れる表層的な「現象」の紹介に留まっていたのですが、まさにそこの基礎的なデータの流れや、GPU上で何が起きているかがこの本で解説されているので、すでにそれなりにShaderが書けるようになっているTAにとっても、充分に知見が深まる内容となっています。
本書はそれだけでは終わらず、ディファードレンダリングの処理、バッファ、タスク、最適化のプロファイリング等も事例込みで、順を追って紹介されているので、読みやすさと相まって一気に履修できてしまいます。
ディファードレンダリングは、一時期フォワードレンダリングに比べて効率のいい方法として流行の様に使われていましたが、現在では描画効率や表現、ハードウェアの適正にあわせて選択されています。
本書ではそれぞれのメリット・デメリットを紹介するとともに、対話形式という手法を用いているため、順を追って理解することできる点がなるほどと唸らせてくれます。
もっと深い知識を得たければ、随所に参考文献のリンクが紹介されているので、そこへ飛ぶと良いでしょう。この本が入口になり、リアルタイムグラフィックのあらゆる知見が得られると思います。
例えばそんな参考文献のなかでも、床井浩平先生のHPを紹介していたり、NVidiaの cg Tutorialを参照に記載していたりと、私が以前から「Shaderの勉強をするには何を参考にしたら良いか?」とよく聞かれる時に答えていた、資料が含まれており、親近感を覚えました。
内容の紹介に関しては、あとは皆さんにも買って熟読していただければ良いとして、この本の筆者の一人、小口貴弘さんについても少し紹介させていただきます。(残念ながらイラスト担当のヨシムネさんについてはあまり存じあげない方でしたので、いつかお話してみたくもあります。)
小口さんは過去3回、CEDEC(ゲーム業界最大の技術交流カンファレンス)で登壇経験があり、ご存知の方も多いと思います。
古くからハードメーカーでGPUのシステムに関わられていることからも、本書の品質の高さを裏付けているのではないでしょうか。
■セッション情報とリンクは以下
・画像認識技術の使い方と最新の取り組み
http://cedec.cesa.or.jp/2011/program/PG/C11_P0089.html
・GPU最適化入門(CEDEC2016)
https://cedec.cesa.or.jp/2016/session/ENG/6483.html
・AD&ADASシステムとゲーム開発技術の融合(CEDEC2019)
https://cedec.cesa.or.jp/2019/session/detail/s5cb80dea61ee3.html
特にCEDEC2016で実施された『GPU最適化入門』というセッションは本書との関連性が深く、CeDiL(CEDECの資料アーカイブサイト)等で当時の資料を一緒に参照するとより理解が深まると思います。
このように、個人的には読んでよかった、面白かったと二重の満足感が残り、とてもおすすめです。
読んで欲しい対象はGPUの概要と最適化を把握しておきたいプログラマーはもちろんのこと(復習にもなりますし)、テクニカルアーティストにとっても、数少ない「参考書」として推薦したいです!
小口さん、ヨシムネさん。
この度は、この本を執筆いただけたことに感謝と尊敬を贈りたいと思います。
(執筆者:麓一博(セガ))