CEDEC2020のスカラーシップに参加した東京大学新領域創成科学研究科博士1年、兼HAL東京ゲーム学科1年の砥出悠太郎です。触覚の研究を行う傍ら、ゲームプログラマになるための勉強をしています。そのような私がCEDEC2020を通して印象に残った体験、及びその中で学んだことについて話します。
まず、私が今回のCEDEC2020を通して学んだことは、特に以下の二点です。
① 「モノづくり」をする際には常に背後にいるユーザーの存在を意識し、 その人が使っている姿をどこまでも想像し続けること。また、生じた課題には真摯に取り組むこと。
② プログラマは実現したい事柄がどんなに抽象的な概念であっても具体的な要素に分解し、 定量的な形でそれを表現できる能力が求められること。
まず、①は「リングフィットアドベンチャー」に関する一連のセッションで得られました。ゲームをしながら本格的なフィットネスを楽しめる「リングフィットアドベンチャー」の開発事例を題材に、フィットネスとゲームを両立したゲームデザインの実現に向けた苦悩について話されていました。普段続けられないスクワットのような「キツイ運動」自体を面白くするために、開発者方は実際に運動しながら課題を見つけ、ゲーム上の報酬(リアクション、エフェクト)を豪華にする、運動負荷を人ごとにチューニングするといった手法で楽しめる体験を実現していました。このように、ユーザーの視点に立ち続けることで問題点を明確にでき、具体的な解決策を図れることが分かりました。
次に、②は「AIBOのキャラクターAIを如何にして実現したのか?」というセッションから得られました。発表では、ペットロボットであるAIBOにどう「生命感」を付与するかを話されていました。生命感は非常に抽象的な概念ですが、犬らしい生命感を可愛さと賢さとして抽象度を下げ、さらには可愛さを形状の丸み、動き、表現力として、賢さを環境の知覚、 意思決定、自律的な行動と段階的に具象化していくことで、最終的に既存の技術が適用できる範囲まで落とし込み、犬らしい生命感を付与していました。このように抽象を具象に落とし込む能力はゲームプログラマになるためにも必要と考えられるため、私はこの鍛錬が十分でないと感じました。
以上、学びを得たことに対して印象に残った体験を抜粋しましたが、私がこの3日間で拝聴したどのセッションについても同様の意識を感じ取ることができ、ゲーム業界に従事する開発者の共通のマインドセットであることが分かりました。
また、これらのマインドセットは個人の活動においても取り入れるべきことですが、ゲーム開発を仕事とするためには開発コストを見据えながらユーザーが楽しめる体験を作り出す必要があり、その要求レベルは想像以上に高いことを痛感しました。
自分の作ったゲームを手に取って買ってもらう、さらには長く愛されるためには、開発者の想像を絶する努力の上に成り立っていたことを実際の開発事例を通して分かりました。
今回、CEDEC2020に参加する機会を提供して頂けましたIGDA Japanの皆様、昼休みや終了後にお話に来て頂きました開発者の皆様、今回知り合えたスカラーシップメンバーの皆様、及び今回私に学びを与えてくれた登壇者の皆様にこの場を借りて感謝申し上げます。 今回得られた学びを踏まえ、長く愛されるゲーム体験を生み出せるプログラマになれるよう努力いたします。ありがとうございました。
東京大学新領域創成科学研究科博士1年、兼HAL東京ゲーム学科1年 砥出悠太郎