スカラーシップでゲームジャムや勉強会に参加する敷居が下がりました/CEDECスカラーシップ参加者特別インタビュー

IGDA日本では毎年、CEDECと東京ゲームショウを対象に学生スカラーシップを実施しています(2019年度の申込み締め切りは7月21日)。今回、スカラーシップ開催にあたり2015年度CEDECスカラーの橘康貴氏に特別インタビューを実施しました(聞き手・構成:小野憲史)

大手からベンチャーに転身

--久しぶりですね。いつのスカラーシップでしたっけ?

2015年のCEDEC組です。その時はまだ大学2年生で、ゲーム業界のリアルなことは何も知りませんでした。

--それが立派なゲーム開発者になって。会社の紹介も兼ねて、何をやっているか教えてもらえますか?

立場的にはVRコンテンツのエンジニアですが、実際にはVRオンリーではなく、リアル脱出ゲームのアプリを作ったり、受託開発をしたりと、エンタメ全般で業務をしています。

--はじめてお邪魔しましたが、絵に描いたようなベンチャー企業ですね(笑)

HOLIDAY STUDIOは自分も含めて社員5人で、このスタジオも2019年6月にできたばかりですからね。去年の秋口に会社が登記されてからは、しばらくはリモートで業務が回っていました。

--卒業後の経緯を教えてください。

2018年に新卒でコロプラに入社して、VRコンテンツの開発をやっていました。その後、当時の上司が独立するというので、一緒にやらないかと自分にも声がかかりました。それでついてきたという感じです。

--大手からベンチャーへの転職ということで、不安はありませんでしたか?

いやー、特に何もなかったですね。前職に不満があったというわけではありませんが、どうせならベンチャーの方が、いろいろ挑戦ができそうだと思ったんです。おかげさまで、すでに炎上案件にも携わりました。

大学で最先端の授業にふれる

--東京工芸大学のゲーム学科卒ですよね。

何かモノづくりをしたくて、高校の時に絵を描いたり、音楽を作ってみたりと、いろいろな分野に手を出していました。その中でいちばん楽しかったのがゲーム作りだったんです。といっても、箱を掴んで運ぶとか、すごくシンプルな内容ですよ。

--プログラミング部などがあったんですか?

いえ、完全に趣味で。DXライブラリを使って、家でゲームを作っていました。それでゲーム業界に興味が出てきて、いろいろ調べていたら東京工芸大学にいきついたんです。

--学生時代からVRコンテンツの開発をしていたんですか?

そうですね。ちょうどPSVRが発売された時期で。自分では高くて買えませんでしたが、大学でよく遊んでいました。それで、VRには大きな可能性があると思ったんです。

--ゼミではどんなことをやりましたか?

3年生の時は正木勉先生のゼミでした。東京ゲームショウのアマチュアゲーム部門に毎年応募して、大賞がとれなければ箱根まで、フルマラソンに近い距離を歩くことになるという、伝説のゼミです。

--過去のスカラーでいえば2014年度の並木勇人君が所属していたゼミですよね。

そうです。並木先輩たちは見事、大賞を勝ち取りましたね。でも、そこから大賞が取れていなくて、自分たちもダメでした。

--4年生も正木ゼミだったんですか?

いえ、自分は今給黎隆先生のゼミに移って、VRについて研究しました。

--元セガゲームスの今給黎さんですよね。ちょうど退職されて、大学に着任されたくらいのタイミングではありませんでしたか?

ちょうどそのころですね。「まだ大学の加減がわからないのでスパルタになります」と最初に挨拶されました。おかげさまで、非常にレベルの高いゼミでした。

--他に大学で印象に残った授業はありましたか?

元コーエーテクモで「戦国無双」などを作られた山本貴光先生の「シリアスゲーム論」という授業が非常に勉強になりました。山本先生はものすごい読書家で、知識の引き出しが多いだけでなく、講義も論理的・体系的で、非常に刺激になりました。

--なんたって「ルールズ・オブ・プレイ」の日本語版翻訳を手がけられたくらいですからね。でも、いろいろ聞いていたら、すごく先生方に恵まれていましたね。

はい、自分でもそう思います。

ゲームジャムの経験が生きた

--最初からエンジニア志望だったんですか?

そうですね。つぶしが効くと思ったので。途中でプランナー専攻に移ることも考えましたが、企画について考えるのは、ゲームをひととおり自分で作れるようになってからでも遅くはないと思い、エンジニア専攻のまま進みました。

--授業はどんな感じでしたか?

学生によってプランナー志望、デザイナー志望、エンジニア志望と分かれているのですが、1年生のうちは合同で同じ授業を受けます。そこからだんだん志望ごとに授業が分かれていきます。もっとも、中核にあるのはグループ制作で、その周りに専門的な授業が配置されているイメージです。自分も4年間で5本くらい作りました。

--ゲームジャムにも数多く参加されていましたよね。

GlobalGameJamに、福島ゲームジャムに、バンダイナムコスタジオのカタログIP GameJamに、企業が採用目的で行う1DAYゲームジャムに……なんだかんだで、10回くらい出ましたね。ラピッドプロトタイピングの経験がつめたことで、仕事をはじめてから役に立ちました。

--CEDECスカラーシップはどのように知ったのですか?

並木先輩をはじめ、先輩方から「絶対に参加した方が良い」と勧められまして……。TGSコースも考えましたが、プロのゲーム開発者と交流してみたかったのと、ちょうどVRについて興味がわいてきた頃だったので、CEDECでいろいろ勉強してみたいと思い、応募しました。

--ペラコンにも参加しましたね。

CEDECでも運営委員をされている遠藤雅伸先生に勧められて、応募してみました。プロの方にちゃんと講評をいただけたのは良かったです。でも順位は147位で、ダメダメでした。正直、黒歴史です。ちゃんとリベンジしなくちゃと思いつつ、今に至っています。

--終了後に書いてもらった体験レポートでは、ランチミーティングや懇親会なども刺激になったと書かれていましたね。

そうですね。プロの方と実際に話ができて、そこで業界がぐっと身近な感じになりました。実際、そこからいろいろ勉強会やゲームジャムに出るようになったんですよ。やっぱり、最初のうちは怖いじゃないですか。「自分なんかが参加して良いの?」って。その敷居が下がったのは、CEDECスカラーシップに参加したからだと思います。

ヒット作を作って会社に貢献したい

--スカラーシップに参加したことが就職活動に役に立ちましたか?

スタジオツアーでいろいろな会社を見学させてもらって、会社ごとにいろんな雰囲気があることがわかったのが良かったです。自分は3年生の夏にコロプラのインターンを受けて、そのまま就活らしい就活をすることなく、入社しました。でも、そんなふうに決断が早かったのも、スカラーシップのおかげだと思っています。

--応募の際に「ボランティアの欄に書くことがない」と敷居の高さを感じる学生もいるようです。

自分は大学でTA(ティーチングアシスタント)をしていたのと、地域で陸上クラブのコーチングをやっていたので、その体験談を書きました。ただ、謝礼をもらっていたので、純粋なボランティアではありませんでした。もっとも、ボランティアと有給・無給は本来関係ありませんよね。

--そのとおりですね。自発的にやるのがボランティアで、対価の有無は無関係です。

自分もそう思ったので書きました。そんなふうに、ボランティアと縁遠いと思っていても、意外と振り返ってみれば、書くことがあるのではないでしょうか? 変な気後れをすることなく、いろいろと書いてみて欲しいですね。では、最後に

--将来の夢や目標について教えてください。

それはもう、ヒット作を創って、みんなに知られる人になりたいですね。それによってHOLIDAY STUDIOが、みんなから知られる会社にしたいです。

橘康貴
2018年にクライアントエンジニアとして株式会社コロプラに新卒入社。その後、VRチームに配属され、VRコンテンツの開発を行う。2019年から株式会社HOLIDAYSTUDIOにて引き続きVRコンテンツの開発を行う。

IGDAスカラーシップ2019の申し込みはこちら(締切:7月21日)