2019年5月22日にSIG-AIによる「ボードゲームAIワークショップ01~ガイスターによる知識表現」が、ピース オブ ケイク社セミナールームで開催されました。当日は20名弱の参加者がボードゲーム「ガイスター」をプレイしながら、本ゲームに適したゲームAI(=COMの思考ルーチン)を考案し、お互いに対戦しながら、ゲームAIに関する理解を深めていました。
ガイスターは幽霊をモチーフにしたコマを使用する、ドイツの二人用ボードゲームです。1982年に発売され、ドイツ年間ゲーム大賞にノミネートされるなど、高い評価を受けています。2種類ある相手のコマの正体を推理しながら、互いに勝利条件を満たすために移動させていくという、シンプルで心理的な駆け引きの要素が強い名作ゲームです。1プレイが15分程度で終了する点も秀逸です。
ゲームは8マス四方のゲーム盤上で行われ、各々のプレイヤーが赤・青4個ずつのコマを所持します。コマを陣地に並べたらゲームスタート! 各々が1手ずつコマを動かしていきます。相手と自分のコマが同じマスに入ると、相手のコマをとることができます。 勝利条件は以下の3つのどれかを満たすことですが、相手のコマのうち、どれが赤でどれが青か区別がつかない点がポイントです。
- 相手の青いコマをすべてとる
- 自分の赤いコマをすべて相手にとらせる
- 自分の青いコマの一つを相手側のゴールから脱出させる
モデレーターをつとめたSIG-AI世話人の三宅陽一郎氏はセミナーの説明をしながら、「ゲームAIをその場で作りあげる臨場感を楽しんでほしい」と語りました。ゲームを遊んで「ガイスター」のコツをつかみ、サンプルプログラムをベースにCOMのアルゴリズムをその場で設定し、相手と人力で対戦させて、改良していくというわけです。
なお、サンプルプログラムは三宅氏がC++版を作成したほか、ゲームAI分野でコンサルタントなどを行うモリカトロンから、同社が研究開発のために制作したPython版も提供されました。
もっとも、COMのアルゴリズムを設定するためには、人間がまず「ガイスター」の行動様式をつかむ必要があります。ゲーム展開がどのような時、どのような意思決定を行うのか、判断材料をリスト化して整理する必要があるのです。
前述の勝利条件から、前に積極的に進んでくるのは赤コマだと推測されます。もっとも、実際は青コマがゴールめがけて進んでいるのかもしれません。相手のコマが何色かは、ゲームが進んで盤上のコマ数が少なくなればなるほど、推測しやすくなります。3つある勝利条件のうち、どれに狙いを絞るか。それはどのタイミングで、どういった理由からなのか。これらが決まらなければ、アルゴリズムを設定することはできません。
こうした行動様式のリスト化は、人工知能の物事への「見方」を作り上げることだといえます。三宅氏はこれを「知識表現」と呼称しました。ひとたび知識表現が固まれば、あとはどのようなプログラム言語でも、その知識表現をもとに実装するだけです。そして、あるゲームを理解するには、そのゲームのAIを作ることが、もっとも良い方法だとも補足されました。
最後にモリカトロン代表の森川幸人氏から、同社のゲームAI研究に関する取り組みについて解説がありました。
同社では囲碁や将棋などの完全情報ゲームは、すでにAI研究が一段落しているという認識から、多くのボードゲームにみられる不完全情報ゲームに舵を切っているとのこと。その中でも「ガイスター」などを題材として、研究に取り組んでいると言います。そのうえで、たまたま本ワークショップで「ガイスター」が取り上げられると聞き、開催協力を行う運びとなったと補足されました。
次回のワークショップは、ギリシャ・ローマ時代の戦争をモチーフとした二人用カードゲーム「バトルライン」を題材に開催される予定です。時期は未定ですが、決まり次第本ホームページで告知されますので、ご期待ください。(小野憲史)