米国サンフランシスコにて、「Game Developers Conference(GDC)2019」が3月18日から22日まで開催されました。これに合わせてNPO法人IGDA日本では、現地を訪れた9人の方を講師として招く「GDC2019報告会」を、4月6日に開催しました。
講師の方々が聴講した講演についての要点を語ったほか、GDCに関連するさまざまな情報も語られました。
AAAタイトルの技術的ポストモーテム
セガゲームスの林洋人氏は、AAAタイトル開発事例として、巨大なマンハッタンを再現したInsomniac Gamesの作品「Marvel’s Spider-Man」の講演に注目。関連セッションが14もある中で、開発の技術的な内容を振り返ったセッションを紹介しました。2003年からGDCに参加しており(2018年は不参加)、中でもInsomniac Gamesの取り組みを継続的にウォッチしているそうです。
本作の最終的なフィールドサイズは128×128メートルの区画が726個で、アセットはおよそ250万ファイル、3.3TBと巨大なもの。そのため講演内容は多岐にわたり超過密な内容ながら、林氏は「こういう話を聞きたい、GDCに行きたいと思っていただきたい」と述べ、特に注目したい点をピックアップしました。
ゲームの舞台であるマンハッタンの作り方では、道をベースに作っていき、Houdiniでプロシージャルに配置して、大事なところだけを手で作るという手法。14セッションもあるだけに、「詳細についてはこのセッションで」と誘導が入るのだそう。
フィールドが巨大なので、何もかもストリーミングで表示しないといけないという前提で、テクスチャやモデル、ライトをどのように圧縮したか、LODしたかなどの話もありました。林氏によると、「AAAタイトルはがっつりシステムを作ってやるのかと思ったら、そうでもなく試行錯誤していた。ケチケチした作戦でデータを詰め込んだりしていたりして意外だった」とのこと。
開発ツールの変遷についても説明がありました。同社はGDC2017年の講演で「2015年頃まではWebベースのGUIツールを作成していたが、Webベースはダメなので乗り換えた」という話をしていたそう。同社ではエンジン制作とゲーム制作を並行して進めており、本作についても開発開始時点では12個あったWebベースのツールを順次、C++で作ったツールに置き換え。1年後には、11個のツールを置き換えたといいます。
サーバークライアントモデルである点や、JSONを使ったフォーマットも同じ。ただ型がないなどの問題があるため、DDL(Data Definition Language)を導入して型をチェックできるようにしています。DDLで定義することで、他の言語でツールを作る時にも使えたり、モジュール間の依存関係を小さくできたりする利点もあります。
林氏は講演の感想として、「同じスタジオの取り組みを継続してウォッチしていくことで、改めて見えてくることがある」として、連続してGDCに参加することを推奨。その上で「日本のゲームの作り方と変わらない。AAAも別世界ではないと感じた」と語りました。
開発者が実験的なゲームを持ち寄るセッション
日本マイクロソフトの増渕大輔氏は3つのセッションを紹介。1つ目は、複数の登壇者が実験的なゲームを紹介する「Experimental Gameplay Workshop」を紹介しました。これは毎年開かれており、今年は3時間の枠で10ほどのセッションがありました。
実験的なゲームとは、これまでにない手法やアイデアを形にしたゲームのこと。紹介された中には、WindowsでCtrl+Alt+Delキーを同時に押してゲームを止めないよう、ファンクションキーやスペースキーを使って解いていくパズルゲームや、与えられるお題に応じてキャラクター配置して絵本を作るゲーム、言葉が通じない国で絵を組み合わせて会話することで言葉を覚えていくゲームなど、ユニークなものがいくつも紹介されていました。
2つ目は、ゲーム内の服やファッションを考えるセッション。ただ綺麗なものや可愛いものを作るのではない、別の視点を探るというものです。プレイヤーの性別が違うことを考慮し、ゲームに没入するために服を選べるようにするのが重要だという話や、各国の文化を研究してデザインに反映するなど、文化的背景を考えてプレイヤーをひきつけることが大事だといったことが語られました。
3つ目はオンラインやマルチプレイに関係するセッションの紹介。Xbox LiveのIDをiOSやAndroidで使えるようにするバックエンドの紹介や、GoogleのStadia、NVIDIAのGeForce NOWなどストリーミングの話題もありましたが、増渕氏が特に言及したのがスタートアップのGenvid。ゲーム実況動画の視聴者が増えていることに着目し、実況者ではなく視聴者向けに情報を出す仕組みを開発しています。プレイヤーに協力したり邪魔したりと視聴者側からゲームに干渉することができたりするもので、視聴者向けのレイヤーの情報を別に配信して、動画のビューワー側で合わせるという手法を取っています。
また「Multiplayer Round Table」というラウンドテーブルセッションでは連日、会議室で机を付き合わせて、マルチプレイヤーのゲームに関する悩みを相談していたそうです。参加者は50人くらいいて、特にペーシングの課題、他のゲームサーバーへのデータ同期、障害のリカバリーなどが話題になっていたそうです。
VRやARの複数プラットフォーム展開を容易にするOpenXR
トライゼットの西川善司氏は、自身が取材し執筆した記事を紹介するという形で講演しました。
1つ目はOpenXRに関する話題です。Windows MRやSteam VRなど数あるヘッドマウントディスプレイに対し、現在はそれぞれにドライバやアプリケーション、ミドルウェアやゲームエンジンがある状態で、開発はそれぞれに総当たりになります。これに対してOpenXRはアプリケーションとドライバの間を抽象化し、さらにドライバ部分も抽象化することで、対応する全てのヘッドセットの垣根を埋める仕組みを作ると言います。マイクロソフトがサポートを表明し、Hololens 2にも対応します。
次はスクウェア・エニックスのメタAIを語るセッション。メタAIとは、ゲームを動的に簡単にしたり難しくしたりする仕組みで、例えば自機が強化されると敵の攻撃が激しくなるといったものです。この実現手法として、ルール、インタラクション、ジレンマの3点を基礎に、ゲームの勝ちへの期待度と負けへの恐怖を表した2Dエモーションマップを考案。勝ちへの期待度が高まったら元に戻そうとするような挙動をメタAIに取らせて、ゲームを面白くしようというアイデアです。
もう1つのスクウェア・エニックスのセッションは、自然言語で遊ぶVRゲーム「First Glance at Kobun」のもの。宇宙人に話しかけて指示し、壊れた宇宙船を直すというもので、自然言語を使ったゲームのパイプラインについて語られています。自然言語を読み取る仕組みを特定の言語(英語など)で作ってしまうとローカライズ時に大変なので、言語認識と、同義語を吸収する処理、最終的にゲーム内で使われる文法にする部分などをレイヤー化していると言います。
「Serious Sam 4」のセッションでは、巨大なオープンワールドの地形の作り方に着目。大半はプロシージャル的なもので作られていますが、地形に凹凸を入れる際、垂直方向にフラクタルノイズを入れるだけでなく、水平方向にも掛け合わせてリアリティを高めています。また樹木は近距離だけメッシュモデルで描画、遠方ではインポスターと言われるテクスチャを貼った平面で代用しますが、クオリティを上げるため、法線情報や深度情報、自己遮蔽情報などを持たせ、平面でもセルフシャドウが付いたリアルな表現を実現しています。
ほかにもサンフランシスコのマップを使ったパックマンや、SIEが数百万円するマスターモニターに近い表示品質を市場のBRAVIAで実現するPS4向けフレームワークを提供する話題なども紹介されました。
(文:石田賀津男)