世界は小さな物語を小さく語りはじめた~SIG-GS「世界のビジュアルノベルゲームは今。【第2回】」レポート

プレイヤー=キャラクター系

①疑似一人称視点

FPS(一人称視点シューティング)と同じく、ゲーム画面が主人公の一人称視点で描かれている作品。高い没入感でゲームをプレイできる。

Papers, Please(2013年)

プレイヤーは全体主義国家アルストツカの入国審査官として、旅行客の入国審査を担当する。旅行客の中にはテロリストや犯罪者が紛れ込んでおり、自身と家族の生活のために、制限時間内に正確な判断を下していくことが求められる。制作者のルーカル・ポープは米ノーティドッグからスピンアウトしたインディゲーム開発者で、日本在住。

Her Story(2015年)

プレイヤーは殺人事件の操作を進める刑事で、事情徴収したビデオを分析しながら、事件の真相をつきとめていく。1994年のイギリスが舞台で、疑似検索エンジンを駆使して膨大なショートフィルムをチェックしつつ、全体像を解き明かしていく点が特徴。制作者のサム・バーロウは「サイレントヒル シャッタードメモリーズ」を手がけた人物。

Cibele(2015年)

オンラインゲームにおけるネット恋愛がテーマの女性向けゲーム。プレイヤーは19歳の少女となり、男性と一緒にゲームを遊んだり、メールやチャットを繰り返したりして親密度を上げていき、恋人同士になることをめざす。米Star Maid Gamesの開発で、ゲームデザイナーのニナ・フリーマン自身が主人公としてゲーム中に登場する。

emery is away(2015年)

主人公は友達以上恋人未満の同級生エミリーと、卒業簿に別々の大学に進学した大学生。年に1回だけAOL風のチャットソフトでエミリーと会話をしながら、一方的な遠距離恋愛をこじらせていく。アメリカ人のカイル・シーリーによる製作。

REPLICA(2016年)

主人公はテロ容疑で投獄された青年で、自身の無実をはらすことがゲームの目的。そのために他人のスマートフォンをハッキングし、メールやSNSの記録をのぞき見て、この持ち主こそが真のテロリストであることを証明していく。制作は韓国の個人ゲーム開発者、Somi。

LIFELINE(2017年)

主人公は未知の衛星に不時着した宇宙飛行士のタイラーに協力し、ストーリーを読み進めながら助言を施して、彼の運命を好転させていく。デジタル版ゲームブックとでもいうべき内容で、リアルタイムにストーリーが展開されていき、生活に侵食してくるゲーム展開が特徴。開発はアメリカのインディゲーム会社、3Minute Games。

Bury me my love(2017年)

シリア内戦をテーマにしたタイトルで、プレイヤーはヨーロッパをめざす妻をチャットごしに見守る夫となり、さまざまな助言を通して妻の運命を切り開いていく。ゲーム画面はチャットアプリのWhatsAppをモチーフとしており、スマートフォンでプレイすると不思議な感覚におそわれる。仏The Pixel Hunt製作。

Attentant 1942(2017)

1942年にチェコ・スロバキアでおきたナチス高官暗殺事件がテーマ。プレイヤーは戦時中にレジスタンスだった祖父の足跡をたどりながら、暗殺の意義や市民生活に与えた影響などについて考察を巡らせていく。チェコのカレル大学とチェコ科学アカデミーが制作したインディゲームで、ゲームを通して歴史を検証する難しさについて考えさせる。

My Child Lebensborn(2018年)

第二次世界大戦中、ナチ党員とノルウェーの女性との間で誕生し、戦後不当な差別と弾圧が行われたレーベンスボルンをテーマにしたタイトル。主人公はレーベンスボルンの少年の養育者となり、社会の差別や偏見と立ち向かいながら、少年を育てていく。製作したTaknopilotはノルウェーのインディゲーム会社で、政府の歴史見直し事業の一環として、ドキュメンタリー映画と共に製作された。

②ウォーキングシミュレーター

3D空間の中を歩き回りながら、さまざまな情報を得たり、イベントをクリアしたりしながら、ストーリーを進めていくタイプのゲーム。ゲームの要素を先鋭化させることで、インディゲーム会社でも開発可能な内容になっている。

Dear Esther(2012)

スコットランドの北西、ヘブリーディズ諸島に位置する無人島を舞台に、主人公のモノローグを聞きながら島を散策していく。謎解きや戦闘などの要素を廃しつつ、さまざまな情報を断片的に配置することで、主人公の正体や状況が次第に浮かび上がってくる仕組みになっている。開発したThe Chinese Roomは英ポーツマスのインディゲーム会社。

Stanley Parable(2013年)

選択肢を選ぶ前に、常に選択後の結果がナレーションで表示されるメタフィクション要素を盛り込んだタイトル。「Dear Esther」と同じく当初はSourceEngineのModとして開発され、好評につき再リリースされた。開発は英Galactic Café。

フィンチ家の奇妙な屋敷でおきたこと(2017年)

 

ゲームは17歳の少女エディス・フィンチの視点で進み、かつて暮らした屋敷を巡りながら、一族の過去を解き明かしていく。ストーリーはエディスのモノローグで語られ、レベルデザインにあわせて配置されており、プレイヤーの自然な誘導に貢献している。開発は米GiantSparrow。

Firewatch(2016年)

米ワイオミング州に広がる自然保護区が舞台のミステリーアドベンチャー。プレイヤーは森林火災管理員のヘンリーとなり、監視塔から火事のもとになる煙を見張りつつ、別の監視塔にいる上司のデリラと共に、荒野の安全を守っていく。広大な荒野とトランシーバーによる交信だけでストーリーが展開していく。開発は米Campo Santo。

Event[0](2016年)

主人公は宇宙船のコントロールを取り戻し、深宇宙から地球への帰還をめざす宇宙飛行士だ。そのためには宇宙船の管理をつかさどる対話型AI「KAIZEN」とのコミュニケーションが不可欠で、実際にタイピングを繰り返しながらゲームを進めていく。AIの進化と共にさらなる可能性が期待されるジャンルだ。開発は仏Ocelot Society。

The witness(2016年)

プレイヤーは記憶喪失の主人公を操作し、さまざまな謎や仕掛けに満ちた島を探索しながら、記憶を取り戻しつつ、家に帰る方法を探していく。650以上のパズルが存在する島を舞台としたオープンワールド形式のアドベンチャーで、テキストによる誘導やガイダンスは存在しない。開発は米Thekla, Inc.で、ゲームデザイナーは「Blaid」のジョナサン・ブロー。

Venti Mesi(2016年)

第二次世界大戦下の北イタリアを舞台に、1943年9月から1945年4月までの20ヶ月間で、レジスタンスにまつわる20本のミニストーリーが展開していく。戦争という大きな物語が、庶民生活という小さな物語によって描き出されている。キュビズムを彷彿とさせる個性的なグラフィックも印象的。開発はイタリアのMÜESLI。

THE GREAT PALERMO(2016年)

シチリアの観光協会によるスポンサードのもとに、地域の食材や食文化をテーマとしたストーリーが展開される。観光振興を目的としたアドバ(広告)ゲームであり、身近なテーマを小さな物語で切り取ったアドベンチャーゲームとしても読み解ける。開発はイタリアのMÜESLI。

(小野憲史)