海外のビジュアルノベルゲームはギミック重視~SIG-GS「世界のビジュアルノベルゲームは今。【第1回】」レポート

NPO法人IGDA日本SIG-GmaeScenarioは2018年5月14日、アクティブゲーミングメディアの水谷俊次氏を講師に迎えて、「世界のビジュアルノベルゲームは今。【第1回】」セミナーを開催しました。水谷氏はSteamを中心とした、海外市場におけるビジュアルノベルゲームの歴史と現状について解説。当日はポリゴンマジック社のセミナールームに約30名の業界関係者が集まり、活発な議論が展開されるなど、業界内での関心度の高さを伺わせました。

 

水谷氏が所属するアクティブゲーミングメディアでは、インディゲームブランド「PLAYISM」を運営中です。PLAYISMのスタートは2011年からで、ちょうど海外市場でビジュアルノベルゲームが浸透していく過程と重なります。その間、同社でも「Analogue: A Hate Story」(カナダ)、「VA-11 Hall-A」(ベネズエラ)、「2064:Read Only Memories」(アメリカ)、「Will -素晴らしき世界-」(中国)といった、さまざまなビジュアルノベルゲームを国内でリリースしてきました。

さて、日本でビジュアルノベルゲームといえば一般的に「雫」(leaf、1996)に代表される、大量のテキストが表示され、選択肢で分岐するストーリーゲームという認識が一般的です。少し定義を広げて、キャラクターの立ち絵+テキスト枠のスタイルをとる、ストーリー分岐型のアドベンチャーゲームを含めることができるかもしれません。

その一方で海外市場では、日本ではビジュアルノベルゲームに含まれない、ギミック重視のアドベンチャーゲームもその範疇に含まれるといいます。代表作は謎解きを中心に据えた「逆転裁判」シリーズで、2005年に「甦る逆転」の英語版が発売されたことで、海外市場で本ジャンルが認知されるきっかけを作ったとのこと。それまではビジュアルノベルゲーム=電脳紙芝居=ゲームではない、という認識が一般的だったのです。

もっとも、日本のビジュアルノベルゲームが海外展開をする上で、ネックになったのがローカライズコストの高さでした。ビジュアルノベルゲーム=非ゲームという根強いネガティブイメージも手伝って、水谷氏も「なかなか海外展開に踏み切れなかった」とコメント。その一方で2012年以降、さまざまなタイトルが登場し、Steam側の変化やクラウドファウンディングなどの登場で、徐々に状況が変化していきます。

かたわ少女(2012年1月)

Four Leaf Studioが開発した同人ビジュアルノベルゲーム。イラストレイター・本庄雷太氏のイラストをベースに、海外クリエイターが中心になって開発された。「ヒロインの多くが身体障害者」「多言語対応」が特徴で、海外産ビジュアルノベルゲームの先駆け的な存在となった。

Analogue: A Hate Story(2012年4月)

それまでビジュアルノベルゲーム=非ゲームという立場をとっていたSteamで、初めてリリースされた記念碑的タイトル。制作元のLove Conquers All Gamesはカナダのインディゲームディベロッパーで、宇宙船内で展開される韓国文化をテーマとしたSFビジュアルノベルゲームという尖った設定が特徴。PLAYISMで日本語版が発売されている。

Steam Green Light導入(2012年8月)

それまで不透明だったSteamの販売基準で、「一定数のユーザー支持があればリリースできる」という制度が誕生。2009年にスタートしたKickstarterと共に(高額なローカライズ費用をクラウドファウンディングで捻出)、国産ビジュアルノベルゲームが海外展開する道筋をつけた。

Sakura Spirit(2014年7月)

米Winged Cloudが開発・販売しているビジュアルノベルゲーム。ケモ耳の女の子キャラクターが多数登場する「お色気コンテンツ」がメインで、スマッシュヒットを記録。Steamでもアダルト色のあるゲームが販売できることを示した。

はーとふる彼氏(2014年9月)

主人公の少女以外、攻略対象がすべて鳥類という異色の女性向け恋愛アドベンチャー。日本の同人サークルによる作品をベースに米デボルバーデジタルからパブリッシュされ、関係者を震撼させた。Steam上でもヒットしたことで、ギャルゲーのパロディを受け入れるリテラシーが市場にあることが照明された。

CLANNAD(2015年11月)

元は2004年にKeyが発売したタイトルで、家庭用ゲームへの移植やアニメ・コミックへのメディアミックス展開など、大ヒットを記録した。2014年11月からKickstarterで英語版リリースのためクラウドファウンディングが開始されると、総額551,981ドルの資金調達に成功。2015年11月にSteam上でリリースされた。

Steam Directの開始(2017年11月)

それまでSteamで販売するためにはSteam Green Lightの通過が必要だったが、Steam Directの開始で、誰でも1タイトルにつき100ドルの手数料を支払えば、ゲームのリリースが可能になった。これによりSteamのリリース本数がうなぎ登りとなり、それにあわせてビジュアルノベルゲームのリリース本数も週に200本以上と激増した。

海外で支持されるビジュアルノベルゲームの傾向とは

このように過去7年間で劇的に変化したSteamにおけるビジュアルノベルゲーム販売。ただし水谷氏は「ビジュアルノベルゲームファンのすそ野が広がったわけではなく、熱量の高い一部のファンが支える状況に変わりはない」と釘を刺しました。その一方でタイトル数の増加に伴い、ジャンルの価格破壊が進行中で、特にアダルト(=お色気系)コンテンツでこの傾向が強いといいます。

これに対して近年、増加傾向にあるのが選択肢の代わりに、ストーリーに即したゲームメカニクスを組み込む「ギミック系」ビジュアルノベルゲームです。前述の「逆転裁判」シリーズが好例で、他に「ダンガンロンパ」「シュタインズゲート」シリーズなど。同社のタイトルで言えば、バーテンダーとなってカクテルを調合する「VA-11 Hall-A」が相当します。客の好みに応じたカクテルを作るか否かが選択肢となり、ストーリーが分岐していくというわけです。

Doki Doki Literature Club!

米team Salvatoによる「ビジュアルノベルゲームの皮をかぶったホラーゲーム」。高校生の主人公が幼なじみの少女から誘われ、文芸部に入部。同じ部員の女の子たちとも交流しつつ、親密度を上げていく・・・という恋愛アドベンチャーゲームの定番要素を踏襲しつつ、次第に主人公を取り巻く世界が狂いはじめていく。特にPCならではのギミックでプレイヤーを心理的に追い詰めていく点が特徴。フリーゲームで配信されており、水谷氏も「ビジュアルノベルゲームの現状を知るのに最適」コメントした。

このように、わずか7年で大きく変化した海外のビジュアルノベルゲーム事情。特に近年では中国市場の存在が無視できないほどになっており、英語圏と中国語(簡体字)圏からのSteamに対するアクセスが折衷するまでになっているとのこと。コンテンツ面でもスマーフォン向けのF2P乙女ゲームなど、新たなジャンルが登場してきているとのことです6月にはValveがPerfect Worldと協同でSteam Chinaの展開を発表するなど、国内メーカーにとっても目が離せない状況が続きそうです。

「日本的なストーリー重視のビジュアルノベルゲームを好む熱心な層もいるが、数は少ないのが事実。その一方で従来のジャンルを破壊するような挑戦的なビジュアルノベルゲームが登場し、海外のユーザーに受け入れられています」(水谷氏)。他のタイトル群に埋もれないためにも、新しいギミックで差別化するビジュアルノベルゲームは今後も増加していくと水谷氏は分析します。一方で大手企業が参入するほど大きな市場でないことも事実。中小企業やインディゲーム開発者の創意工夫が試される場所だと言えそうです。

そんなビジュアルノベルゲームにおいて、ヒットする秘訣とは何か。水谷氏は「じっくり遊んでもらわなければ、価値がわかりにくいのがビジュアルノベルゲームのネック」と指摘し、まずプレイして5分で他のゲームとの違いがわかること。その上でじっくり遊ぶと、当初の期待を良い意味で裏切る、さらに大きなおもしろさが感じられることを上げました。その上でゲームを評価する際、タイトル画面に一番注目するとコメント。人を楽しませようとする気持ちが、タイトル画面に集約されていると指摘しました。(小野憲史)