外から中へ/中から外へ~二重のループ構造
自我を持つ人工知能の開発について議論する「人工知能のための哲学塾」。2017年9月27日に開催された第四夜では「龍樹とインド哲学と人工知能」と題して、恒例となった株式会社Donutsセミナールームで開催されました。前半の講演パートではSIG-AIの三宅陽一郎氏が、2~3世紀のインドで活躍し、大乗仏教の祖とされる龍樹が唱えた「空(くう)の理論」を手がかりに、「縁起的な人工知能」、すなわち世界との関係性の中で「生まれ出ずる人工知能」について解説しました。
西洋哲学をベースに発達してきた人工知能。しかし、エンジニアを中心に「考える存在」というアプローチで研究開発が進んだ結果、ある種の行き詰まりを迎えています。どこまでいっても「自我を持つ」ことができないのです。そこで視野を広げて東洋哲学の考え方を組み込み、「存在(実態)としての人工知能」の可能性を考えよう……。これが「東洋編」の出発点となります。この考え方をベースに、これまで5回(零回+壱~参回)セミナーが開催されてきました。
西洋哲学と東洋哲学の違いは、その関心時にあります。知の巨人アリストテレスを筆頭に、西洋哲学の関心時は人間・自然・社会など、あらゆる分野に波及し、学問の基盤を形成しました。その一方で東洋哲学の関心時は「人間とは何か」という一点に絞られます。その源流は古代インド哲学に求められ、そこから中国、日本と東進していきました。その結果「知能は内面世界と外面世界の共創であり、共創の場は時間と空間の融合体である」という考え方が、さまざまな哲学者によって熟成されていきました。
ただし、これまでの人工知能は「外界から情報を取り入れ、意思決定し、行動する」という、外→内→外の情報循環で成立していました。これに対して「内面から自己を構成する情報を導き出し、外界に放出し、そこからフィードバックを受けて、自己を深める」という、内→外→内という情報循環を作り上げて、両者の拮抗点に知性を作り上げる。そして、そのループを瞬間的なものではなく、ある程度の時間幅をもたせる。これが、過去回で語られてきた、新しい人工知能のモデルになります。