スタジオツアーで得た学びとは
--他にスカラーシップのプログラムで、何か印象に残っているものはありますか?
正慶:技術講演を聴くのも刺激的でしたが、ラウンドテーブルはもっと刺激的でした。ツールや生産性の向上がテーマで、「あんなことで悩んでいる」「だったら、こういうやり方はどうか」といった具合に、さまざまな議論が行われていました。学生とはいえ、ゲームを集団制作している最中だったので、プロでも同じような疑問を持つんだなと実感しました。これは、手が届かない存在じゃないぞと。
津川:私はCEDECでペラコンを主導されている遠藤雅伸先生が大学にいらっしゃるので、CEDECには大学2年の時から3回連続で参加しました。それもあって、TGSコースに応募したんです。もっとも、自分が参加したチームの作品「10動説」が日本ゲーム大賞のアマチュア部門にノミネートされたので、チームごとビジネスデイに参加できてしまったというオチがついたんですが。
ーースカラーシップではスタジオツアーも行われますが、印象的だったことはありますか?
酒井:トライエースさんで内製ゲームエンジン「ASKA」のデモを拝見したことですね。物理ベースレンダリング(PBR)の思想をいち早く取り入れて、リアルタイムで動作しているのを見て感動しました。PBRは当時まだエマージングな技術で、その後のトレンドになりました。自分もそんな風に新しい技術とかかわって、トレンドが作り出せるようなCG技術者になりたいですね。
中村:たゆたうさんで社員の方にVRについて質問したとき、「社内で自主的に研究開発をしている」と回答されたんです。その時はそれで終わったんですが、後日開催されたVRイベントで社員の方にお会いしたんですよ。さらに、よむネコが『エニグマスフィア』をイベント出展した時も、やっぱり社員の方にお会いしたんです。そんな風に、ちょくちょくお会いする機会があったんです。
--それは興味深いですね。
中村:そうこうしていたら、2016年の東京ゲームショウで『ラストラビリンス』を出展されたじゃないですか。なるほど、ずっと社内で開発されていたんだなあと。しかも、『エニグマスフィア』と同じく脱出要素のあるアドベンチャーゲームだったので、内容がすごく気になってしまって。勝手に自分が意識しているだけかもしれませんが、何か奇妙なご縁を感じます。
--ゲーム業界は広いようで狭いので、そういうことってあるんですよ。だからこそ、普段から人の縁は大切にしなければいけないという話ですね。
正慶:自分は1日で3社を回ることができて、どの会社も開発室の雰囲気が全然違うことに驚きました。しかも一度入社してしまえば、もう他の会社の開発室にお邪魔する機会って、基本的にないじゃないですか。学生のうちに見学させてもらえたのは、すごく貴重な機会でしたね。
津川:私はDeNAさんの広さに驚きました。カフェが素敵で、福利厚生の一環として昼食が無料だったことにも驚きました。それまで企業研究をしていても、福利厚生まで気が回らなかったので、視野が広がりました。ただ、福利厚生といっても会社ごとに違いがあって、弊社だとイベントにどんどん行かせてもらえるんですよ。CEDECとか、Uniteとか、ニコニコ超会議とか、どんどん行ってこいて。それが福利厚生にもなっていて。
--北尾さん自身も、いろんなイベントに参加されていますよね。
津川:そういえば、弊社ではGDCむけに渡航積み立てがあるんです。毎月の給料から天引きされるシステムで、GDCの参加目的以外にも自由に使えます。GDCはエンジニア向けというイメージがありますが、アーティストが行かなきゃダメだって。
酒井:自分もGDCは2016年に参加しました。TAブートキャンプが刺激的でしたね。セッションだけでなく、現地で開催された日米クリエイター親睦会にも参加して、人脈が広がりました。
--ますます活躍の場が広がっているようで何よりです。それでは最後に一言ずつ、CEDEC&TGSスカラーシップの参加意義についてコメントをお願いします。
津川:それまでは大手志向でしたが、TGSでインディゲームを見て、視野が広がりました。自分のキャリアに大きな影響を与えたと思います。また、アーティストの仕事がいろいろあることもわかりました。まずは背景アーティストとして仕事をする予定ですが、将来的にはテクニカルアーティストも視野に入れてスキルアップしていきたいですね。
正慶:ゲームの作り方は会社それぞれで、大手と中小では違うし、中小の中でもさまざまです。そういったことがCEDECに参加して、さまざまな企業の方とお話しできて、よくわかりました。そんな風に視野が広がったことが良かったです。また、就職活動で面接の良いネタにもなりました。CEDECで学んだことについて、皆さん熱心に聞いてくださいました。
中村:神山さんの例ではありませんが、人って意外なところでつながっていて、CEDECがご縁で知り合った人と仕事を通して係わることが、びっくりするくらい多かったんです。特に自分の周りにはVRに興味がある人が多くて、どんどんみんながVRに集まってきている感じがします。そうした人の繋がりを作るのに、スカラーシップはすごく役に立つと思います。
酒井:CEDECは毎年、その年の技術トレンドがわかる場だと思うんです。2011年はPBRやリニアワークフロー、2012年はゲームエンジン、最近だとAIやVRといった具合です。そんな風に毎年参加していると自分の中で規準ができてくるし、最初のころは内容が理解できなかったことでも、次第にわかるようになります。そんな風に自分の成長を実感できる場でもありますし、だからこそ継続して参加することが重要です。スカラーシップはその第一歩を提供してくれる良い機会だと思います。