「謎解きイベントカンファレンス2016夏~常設型謎解きイベントの現状と今後~」開催レポート

NPO法人IGDA日本SIG-NAZOは「謎解きイベントカンファレンス2016夏~常設型謎解きイベントの現状と今後~」を2016年8月1日(月)、クラーク記念国際高等学校秋葉原ITキャンパスで開催しました。

今回のイベントでは、平日午後早い時間にも関わらず30名以上の参加者に恵まれ、常設型謎解き施設の現状や今後についての内容を中心に、謎解き業界全般に関して有意義なディスカッションが行われました。

今回は、これまで主催していたIGDA日本SIG-ARG謎解き分科会がSIG-NAZOへ体制強化されて初めてのイベントとなります。カンファレンスの冒頭でSIG-NAZO正世話人に就任した南晃氏は、SIGの目的として

  1. 謎解き業界の現状を分析し文化として広めていく。
  2. 謎解き業界関係者の交流の場とする。

を紹介し、開会を宣言しました。

カンファレンスでは南氏の基調講演に続いて、エスケープハントジャパン株式会社の山田敦子氏による「エスケープハントの常設型施設の工夫」、時解 eScape cafeの正岡慎也氏による「常設型店舗運営に必要なこと」、株式会社ナムコによる髙橋幸治氏「なぞともカフェの現在の状況と今後について」の三講演が行われました。

その後、常設型謎解き施設の今後について、パネルディスカッションが行われました。なお、文中の「現在」とはカンファレンス開催時点(2016年8月1日)となります。

基調講演「謎解きイベントの最新トレンド」〜南晃氏

2016年上半期の謎解き業界の傾向として、南氏は再演の増加を指摘しました。

この背景として、フェス系のイベントが増えたことによるコンテンツ数増加の影響が推測できるとします。

フェス系イベントの増加により公演実施のハードルが下がったことから、新団体が増加したと予想され、実際に昨年に比べ2倍のペースで団体数が増えているとのこと。また、大規模コラボレーションイベントや地方公演数が増加、公共交通機関を利用する広域周遊イベントや複数公演をパッケージで提供するハシゴ型イベントの出現などもあり、全国的に制作者・参加者の増加が見られ、謎解き業界としての裾野が広がっている傾向が見て取れるとします。

その他のトピックとしては、海外で世界的な謎解き関連業界のカンファレンスが行われたことや、小学生の制作者の出現など、発展する謎解き業界について報告が行われました。また、謎解き業界の拡大にともない噴出してきた著作権侵害や商標権侵害などの問題についても報告され、これらの課題を解決し業界をさらに発展するために、よりいっそうの情報交換や紛争処理に関する協調の必要性といった問題提起がされました。

今回のテーマである常設型謎解きイベントについては、ルーム公演型、イベントスペース型、カフェ併設型、アトラクション型の4分類が可能ではないかと提案があり、それぞれの特徴や傾向について分析が行われました。

「エスケープハントの常設型施設としての取り組み」~山田敦子氏

エスケープハント社はタイ王国バンコクに本社を持つグローバル謎解き企業で、日本での店舗は浅草にあります。

エスケープハント社の店舗は、準備中を含めて全世界に50店舗以上出展しており、謎解き自体を映画やカラオケに続く新しい文化にしていくことを目的として展開しています。そのため謎解きだけではなく、ラウンジをはじめ店舗内での総合体験を提供する、ミニテーマパーク的な店舗づくりにしているとのことでした。

参加者の年齢層は小学生から高齢者まで幅広く、参加者の60%はツーリストや日本在住の海外出身者で、いわゆるインバウンド対応にも力を入れているとのこと。宣伝媒体はFacebookやInstagram等のSNSに加えて、トリップアドバイザーなども利用しており、グローバル企業であることの強みを活かして英語での情報発信を行ったり、言語にとらわれないゲーム設計などにも力を入れて、国内外にアピールしているとのことでした。

エスケープハント社の競合相手は映画やカラオケ、寺社仏閣等の観光資源で、謎解き業界同士で協力して盛り上げていきたいとのこと。特に謎解きイベントはコンテンツのリピート参加が非常に難しいため、国内の企業同士が連携して、お互いのコンテンツを紹介し合う重要性を指摘するとともに、企業や制作者同士での連携が提案されました。

「常設型店舗運営に必要なこと」~正岡慎也氏

時解 eScape cafeは大阪・道頓堀に店舗があり、パチンコやホテル、ゴルフ場事業を行う光明興業株式会社が運営する常設型謎解き店舗です。2013年11月に開店し、関西エリアにおける常設型謎解き店舗の先駆けとなっています。「時解」という店名には、人生という「時」を大切にしてほしいという思いと、謎を「解」く、問題を「解」決して仲間づくりをしていくという思いがこめられています。

時解は開店前からターゲット顧客を27歳女性謎解き初心者と明確に設定しており、それに沿った店舗作りを行っているとのこと。ターゲットを明確にすることで店舗の外観や飲食メニュー、コンテツ内容などがぶれず、戦略的な店舗運営が可能になるとのことでした。

常設型店舗として重要な顧客アプローチについても、また行きたくなる、リピーターになってもらうことをめざして初心者でも貢献できるゲームデザイン、カフェ空間を活かしての充実した商品数のカフェなどを提供しています。コンテンツについてもルーム型謎解きを常時2種類展開しつつ、両者を隔月のハイペースで入れ替えることで、来るたびに新しいゲームが楽しめるようにしているそうです。また、初心者向けゲーム制作の観点から、個々のプレイ時間は45分を目安にしているとのこと。

また、スタッフが楽しむことができるゲームはお客様も楽しめるゲームであるとの考えから、時解のゲームでは必ずゲームマスターであるスタッフとの交流要素が入れられており、これによってお客様に対してワクワク感を提供しているとのことでした。

最後に重要なのはお客様の声であり、常にお客様のご意見を聞いて改善していくことが重要であるとまとめました。

「なぞともカフェの現在の状況と今後について」~髙橋幸治氏

なぞともカフェは「いつでも」「気軽に」「選んで」「集まれる」をコンセプトにした新感覚謎解きエンターテイメント施設として、株式会社ナムコにより運営されている常設型謎解き施設です。なぞともカフェにはCUBEと呼ばれる部屋が複数設置されており、それぞれのCUBEで異なる世界観の謎解きゲームが楽しめます。現在、国内で5店舗、国外に2店舗を展開中です。

過去に「WONDER Q」の名義で謎解きイベントを展開、またwebサイト”なぞとも”を開設。なぞともは日本全国のなぞときイベントを登録できるサイトで、現在1,430件のイベントが登録されているとのこと。なぞともサイトを運営する目的には、多くの人に知らないイベントにふれてもらい、謎解き市場を広げて業界の活性化につなげることにあるとのことです。

これらの知見を活かして2013年7月に期間限定の店舗を代官山に出店。それが現在のなぞともカフェにつながっているとのこと。

常設施設の問題点としては、他の謎解きイベントと比べて優先順位が下がること。理由として「常に店舗があるため、他の期間限定イベントが優先されてしまう」ことが推測されています。そのため約90日でコンテンツを入れ替える、なぞともパーティと呼ばれるカフェスペースでのイベントを展開する、などの工夫を進めているそうです。

またCUBEを遊ばなくてもカフェスペースでの交流できる環境の構築にも力を入れており、謎解きファンむけリアルコミュニティの中心になるようにもしているとのこと。客層も新宿店では6割が女性で、中でも20代女性が多い点が特徴。これには社会人女性が安心して楽しめる夜間のエンターテイメントが少ない中で、なぞともカフェがその需要に答えているからではないかと推測されています。

今後も「なぞとも」「ロケ謎」「CUBE」など、遊びを作りやすい仕組みを整えることで、遊びを通してお客様を幸せにするという企業理念を叶える活動を進めていくとのことです。

パネルディスカッション

公演に続き、南晃氏を座長とし講演者でもある山田氏、正岡氏、髙橋氏を交えてのパネルディスカッションが開かれました。

大きな話題となったのはインバウンド対応についてです。現在利用者の6割近くが外国人であるエスケープハントに対し、時解やなぞともカフェはその割合が低いことについて、理由などが議論されました。

コンテンツについて現状、日本産のものは言語依存性が非常に強いため、海外の方はプレイに向いていないことが挙げられました。もちろん時解、なぞともカフェ共に外国人対応についても関心は高く、非言語系コンテンツや英語コンテンツの導入、海外支店で展開する非言語系コンテンツの逆輸入など、様々な可能性について検討中だといいます。これに対してエスケープハントでは、コンテンツの製作時から日英バイリンガル仕様で設計していると共有されました。

また、バイリンガル対応は公演型では難しく、常設型店舗こそ対応可能ではないかという意見も出ました。

その後、インバウンド対応はビジネス的に見ても業界発展に関しても議論が必要な分野であると意見の一致をみました。

さらに、常設型運営のビジネス的な側面について忌憚のない意見交換が為されました。出店直後は非常に大変ではあるものの、長く続けることで可能性は広がっていくこと。一方で市場の動向やお客様のご意見を注視しつつ、戦略を練る必要があるなどの意見が聞かれました。

最後にモデレータをつとめた南晃氏から「謎解き業界はコンテンツを継続して作り続け、連携して対応することが今後の発展につながる」とまとめられ、カンファレンスは終了しました。