消極性デザインって何だ?
ゲームプランナー志望者の学生に対して、先人達がさまざまなノウハウを伝授する「座・芸夢 for STU」。座学と演習の二部構成で、学んだことをすぐに実践できる点が特徴です。1月13日に開催された第18回ではユニティ・テクノロジーズ・ジャパン合同会社のエバンジェリストで、慶應義塾大学大学院でメディアデザイン研究も行う簗瀬洋平(やなせようへい)氏が「消極性デザイン」をテーマに登壇。参加した学生たちは「消極的な人に対して、いかに押しつけがましくなく、間接的にアクションをおこしてもらうためのサービスやプロダクトを作るか」というお題にについて、頭をひねりました。
開口一番「飲み会で誰とも話せない、人前で発表したくない、意見があるけれども言えない・・・でも、本当は前向きになりたい。そんなふうに、自分の理想と行動のギャップに苦しんでいる人は少なくありません」と切り出した簗瀬氏。その背景にあるのが日本特有の「空気を読むことを強要される」社会です。人前で発表したくない人の中にも、「本当に発表したくない」人にまじって、相当数の「目立ちたがり屋だと思われたくない」人々が存在すると思われます。では、どのような仕組みを作れば、そうした人々の社会的障壁が減って、より自然に発表できるようになるか、考えてみましょうと簗瀬氏は続けました。
「一般的に積極的になることは良いことだと思われています。しかし、人間誰しも消極的な側面を抱えているものです。社会の側を適切にデザインすることで、積極的にならないことがネガティブにとられないようにする・・・私たちはSIGSHY(Special Interest Group on Shyness and Hesitation around You)を立ち上げ、この問題に学術的な側面から取り組んできました」(簗瀬氏)。
簗瀬氏が例にあげたのは「出会えない人のための婚活サイト」「夕食のための席決めシステム」「画面の覗き見防止システム」「居酒屋でのお得な注文方法」などです。婚活サイトは通常、パートナーを求める人むけのサービスですが、多くのサイトがリア充の写真をたくさん掲載し、キラキラした雰囲気を演出しています。これでは「消極的ゆえにパートナーがいない人」は気後れしてしまいがち。その結果、真のユーザー層にリーチできていないリスクが考えられます。キラキラした雰囲気をあえて抑えることで、消極的な人々のモチベーションを喚起させる・・・これも一つの「消極性デザイン」というわけです。
続いて簗瀬氏は自身の研究から「誰でも神プレイできるSTG」という事例を紹介しました。これは自機の移動をコンピュータ側が見知し、あえて自機を狙ったり、狙いを外したりして弾幕をばらまくSTGのデモです。このようにコンピュータ(環境)側が人間の行動を予測して、それに対して適切なアクションを行うと(弾がだんだん当たらないように調整していくと)、誰でも容易に上達感や達成感を提供することが可能になります。これによってSTGに苦手意識を持つ人でも、やる気を促すことができる・・・。これもまた「消極性デザイン」の例だとしました。
さまざまなアイディアが飛び出した演習
後半では学生がグループに別れて下記の手順で演習を行いました。
①自分が消極的になってしまうシチュエーションを考える(10分)
②それぞれが考えたシチュエーションについて発表しあう(10分)
③グループ内で、もっとも共感されたシチュエーションと、意外だったシチュエーションを一つずつ選び、それらを解決するための具体的なシステムやサービスを考える(20分)
もっとも「具体的なシステムやサービス」と言われても、すぐには浮かびにくいもの。ここで簗瀬氏は「居酒屋でのお得な注文方法」を例にあげました。居酒屋で各自が自由に注文すると、「内容が重複する」「量が多すぎて余る」「本当に好きな料理が食べられない」などの問題が発生しがちです。そこで事前に一人一品ずつ注文するようにルールを決めておくと、こうした問題が解決でき、お財布にも優しい・・・。このように「消極性デザイン」は間接的に人の行動を導くもので、ハイテクなことをする必要はないというわけです。
こうしたアドバイスを受けつつ、参加者はめいめいの「消極性」と向き合いながら、さまざまな解決法を考案。発表タイムでは下記のようなアイディアが飛び出しました。
◆美容室で満足のいく仕上がりでなかった時、修正を依頼しにくい→最後に「これからお直しに入りますが、気になる点はございますか?」といった問いかけをしてくれる。
◆カラオケで最初の一曲をいれにくい→入店前にスマートフォンで参加者が一曲ずつ、歌いたい曲を登録しておける(曲順はランダム)
◆店員さんなどの目が気になって、お洒落な店に入りにくい→iPadやPapperが接客してくれる。またはVRなど店員の存在を消す仕組みがある。
◆友人とどこにご飯を食べに行くか決めるまでに時間がかかる→食べ物の好み・体調・時間などでお店をレコメンドしてくれる。
◆リーダー決めの時に尻込みしてしまう→リーダーを交替で担当する。
これらの発表を聞きながら、簗瀬氏は「思いがけずバラエティに富んだアイディアが飛び出し、たいへん驚いた」と賞賛しました。またアイディアの中には、すでに実施されているものも多い(リーダーを交替で務める→日直・週番など)として、なぜそうしたシステムが登場したのか、あらためて考え直すきっかけにもなると補足しました。そのうえで「ゲームデザインはルールを設定して、プレイヤーをゴールまで間接的に誘導する技術」と説明し、普段からこうした演習を行うことが訓練に繋がるとまとめました。
*消極性デザインについては簗瀬氏の共著「消極性デザイン宣言 消極的な人よ、声をあげよ。……いや、上げなくてよい。」(ビー・エヌ・エヌ新社)に詳しくまとめられています。
次回「座・芸夢 for STU」は「ルールズ・オブ・プレイ」の翻訳などで有名なゲーム作家の山本貴光氏をゲスト講師に迎え、「飽きないゲームを作るには?」をテーマに、3月15日に開催されます。
(小野憲史)