本書「Unity による VRアプリケーション開発/作りながら学ぶバーチャルリアリティ入門」(Jonathan Linowes 著/オライリー・ジャパン刊)はUnity(時に Blender) をベースに一歩一歩、初歩からアプリケーションを作れるまで登っていく書籍です。そして、とても良書と言えます。
というのも、本書がことさらユーザーの詰まりそうなところを丁寧に解説しながら、一つ一つのステップを入念に解説しているからです。たとえて言うなら、お客さんを招いた時に登る階段をとても綺麗に掃除しておいて、つまずきそうなところには、あらかじめ注意書きが施されている、といった様子です。
ソースコードはすべて github で公開されており、ダウンロードしてビルドすることができます。ソースコードの解説もつぶさにありますが、そのコンセプトが詳細に解説されており、ここで必要な概念を理解しながら進む形式になっています。
https://github.com/oreilly-japan/unity-virtual-reality-projects-ja
対応機種も、Oculus Rift だけでなく Google Cardboardにも対応しています。また Unity上の開発がメインですが、フリーソフトウェアBlender 上の開発の解説もところどころにあります。本著者は「Cardboard VR Projects for Android」という書籍も著しています。
本書を読むうえで3D開発の経験があれば理解が平易でしょう。しかしUnity自身が簡易に3D開発ができるようにカバーしているので、そこまで深い理解が必要ではありません。本書を読み進めながら、基礎だけを理解して行けばいいでしょう。 ソースコードはC# ですので、C#を読める必要がありますが、本書を読みながら勉強しても間に合うでしょう。Unityもまた本書内で詳しく解説されているので、本書を読み進めながら勉強すれば間に合います。
また本書は開発のノウハウに留まらず、VRの歴史や背景にある思想などにも、歴史的な図版を交えながら解説しています。決して多くはありませんが、アプリケーション解説の邪魔にならない範囲でピンポイントで本質的な解説がされています。
本書で悪いところはあまり見つかりません。良い点を挙げるときりがないですが、
VR開発の経験に長けた著者が入念に解説している
文字が小さめだがレイアウトが美しく読みやすい
ボリュームが多いわかりには薄く仕上がっていて持ち歩きやすい
ソースコードが全公開されている
などがあります。このように成熟されたレベルで本書が成立している理由には、複数の査読者(巻末に6人表示)による査読を経て、隙がなく整備され、解説がコントロールされているからでしょう。本作りそのものに対するプロフェッショナルが感じられる一冊です。そして、なにより、私もそうですが、この分野の初学者に一番に推薦できる本です。
三宅陽一郎(IGDA日本SIG-AI正世話人)