あやしげなライターをどう見破る? 「ゲームシナリオライター講師サミット」レポート

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ゲーム制作、特にRPGやアドベンチャーゲームといったストーリーゲームでは、非常に重要な地位を占めるゲームシナリオライター。ゲーム業界をめざす学生にとっても、昔から高い人気を誇る職種の一つです。特にモバイル・ソーシャルゲーム市場が成熟期を迎える中で、ゲームシナリオが占める役割は以前にも増して大きなものになっています。

その一方でゲームシナリオライターの育成方法について、これまで体系的に論じられることはほとんどありませんでした。特にゲーム開発の大作化・分業化が進む中で、多くのゲーム開発会社でゲームシナリオの外注化が進んだ結果、ゲームシナリオライターをめざす学生にとって、業界への就職手段やキャリアパスが、ますます見えにくくなっています。

こうした中で7月26日、SIG-GameScenarioはラウンドテーブル「ゲームシナリオライター講師サミット」を開催しました。会場となったコロプラ社セミナールームでは、現役ゲームシナリオライターとゲームシナリオを教える専門学校の講師らが集まり、学生の現状やカリキュラムなどについて熱心な議論が交わされました。

ラウンドテーブルはまず、モデレーターをつとめた眞島浩一氏(脚本家・漫画原作者・ゲームシナリオライター・ヒューマンアカデミー講師)から、専門学校の現状について報告が行われました。眞島氏は「表現者として育成する前に社会人としての基礎や心得、精神的なタフネスなどを教えなければならない現状がある」と語りました。

また、現役ゲームシナリオライターの中でもゲームシナリオについて体系的なトレーニングを受けた者が少なく、多くは小説家や脚本家、または企画やプログラマーからの転向組であること。さらにソーシャルゲーム市場の拡大により、売り手市場が続いているため、経歴を隠して業界に潜り込む「あやしげなライター」が増加している現状が共有されました。

その後、事前の参加者アンケートに沿って議論が開始されました。しかし、過去に例のないテーマでのラウンドテーブルだったため、参加者の自己紹介と問題意識の共有だけで瞬く間に時間が過ぎてしまい、本来のテーマであるカリキュラムのあり方について、深く掘り下げるまでには至りませんでした。参加者からも「ぜひ次回を開催して欲しい」など、さらなる議論を求める声が聞かれました。

ラウンドテーブル終了後、SIG正世話人の山野辺一記氏(エッジワークス)と、モデレーターをつとめた眞島浩一氏(脚本家・漫画原作者・ゲームシナリオライター・ヒューマンアカデミー講師)に企画意図や、会を終えての感想などについて伺いました。

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山野辺一記氏(左)と眞島浩一氏(右)

ーー今回このようなラウンドテーブルを企画された、そもそものきっかけや背景があれば、改めて教えてください。

山野辺:ゲームシナリオという業界分野を活性化させるために、希望者の裾野を広げること、育成方法を確立する必要があると感じていました。
そのうえで、業界関係者の方々の意見を聞きたかったため、このような場を設定しました。

ーー眞島さんは山野辺さんからモデレータの依頼を受けた時、どのように感じられましたか?

眞島:正直なところ、IGDAの活動自体を存じ上げなかったので、寝耳に水という面持ちでした。
「ゲームシナリオライターの育成現場の現状」というお題で、しかも、業界の人たちの前で話をするということで、戸惑いや不安を感じたのが事実です。

ーー参加者のバランス(学校関係者、シナリオライター、企業参加者など)はどのように感じられましたか?

山野辺:シナリオライターの方が予想以上に多かった印象がありました。

眞島:分野的にバランスが良かったのではないでしょうか。

ーー冒頭で眞島さんから「ゲームシナリオライターの育成現場の現状」に関する講演がありましたね。そもそも、どういった経緯で実施されることになったのでしょうか?

眞島:ラウンドテーブルにお声がけいただいた時、山野辺さんからあわせて依頼がありました。ゲーム業界にとって、クリエイティブ部門の根幹であるゲームシナリオライターの劣化が叫ばれているので、教育現場の現実や質を把握したいという意図があったと理解しております。

ーー講演を聞いて、感想はいかがでしたか?

山野辺:教育現場からの具体的な現状や意見を聞けてよかったと思います。大変、参考になりました。

ーーディスカッションの内容で、特に印象的だったものはありますか?

山野辺:多くのゲーム開発企業がゲームシナリオライターの情報を得る方法がないという事実を知らされ、驚きました。

眞島:ライターがゲーム業界のクリエイティブ部門において、どれほど大切なのかを理解していらっしゃる方々が出席されていた・・・という印象です。ただ、企業参加者の方々の間でも、温度差があるように感じました。

ーーもう少し詳しく教えてもらえますか?

眞島:積極的な姿勢の方々は、すでに社内で行動されていて、その補完のための情報収集でいらした感じでした。そうではない参加者の方々は、社のコンテンツの質が向上しない理由を求めていらした感じがしました。おそらく、こちらの姿勢の方々のほうが世の中の大半を占めているのでしょう。

ーーなるほど。

眞島:もっとも実際には、この点すらも理解していない企業が圧倒的に多いのだろうと察せられました。ラウンドテーブル中でもっとも盛り上がったのが、〈あやしげなライターが跋扈している〉という問題だったことは、象徴的でした。

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ーー今回のラウンドテーブルで、もう少し議論したかった点や、課題などはありましたか?

山野辺:ゲームシナリオライターの効果的な育成方法について、より議論を深めたかったです。

眞島:〈あやしげなライターが跋扈している〉問題への対策や質の向上について、もっと議論したかったですし、出席者の方々もそのように思っていらした気がします。

ーーゲームシナリオライターの人材育成について、個人的に抱かれている問題点や改善点などがあれば教えてください。

山野辺:映像脚本家の育成とは異なるため、時代に合った方法を早急に見つける必要があると考えます。

眞島:たくさんありますね。「短期間でプロのレベルにまで押し上げる、教育の技術をどう向上させるかという問題」であったり、「クラスの個々人のレベル差がある場合が多く、同じ期間内で、それらを均等にまんべんなく教える難しさをどう克服するかという問題」。さらには「卒業生の受け皿の問題」など、課題は山積みです。

ーーたしかに、ゲームシナリオ教育はゲームデザイナー・アーティスト・プログラマーといった、一般的なゲーム開発者教育とは若干異なるために、これまであまり顧みられてこなかった点があるのかもしれませんね。ではゲームシナリオおよびゲームシナリオライターの地位向上について、何かアイディアはございますか?

眞島:企業の方々がライターを使い捨てしている危機的な関係が現状であることを、企業側もライター側も認識し合うことが大切なのだと思います。なので、それを双方へ知らせる(教育する)場や方法をつくりあげていくことは重要な気がします。

また、今回のラウンドテーブル中で出た〈あやしげなライターを見破る法〉を広く業界に提示することは重要です。質の向上を目指す企業は一考の余地がありますし、それでもライターへのギャラを抑えたい企業は、それなりのリスクを承知で企業的な活動を続けられるからです。

ーーありがとうございました。最後に今後のSIG-GSの活動について、何か予定やアイディアがあれば教えてください。

山野辺:SIG-GSの存在をより多くの業界関係者に知ってもらいたいと考えています。

またゲームシナリオ文化の継承のために、日本、世界のゲームシナリオの歴史の勉強会を今後、企画していきたいと考えています。