【人工知能の行方 ゲームエンジンとVRの間で】
PS4やXbox Oneといった現世代機の発売が一巡すると共に、外販されるものから内製エンジンまで、各社から出揃った感があるゲームエンジン。
それに伴いゲーム開発も、これらゲームエンジンをいかに効果的に活用するかというフェーズに移りつつあります。
こうした状況において、ゲームAIはどのような位置づけにあるのか。
GDC2016全体を通して語られた、最新ゲームエンジン上で動作するAIシステムやゲーム作成の事例について、スクウェア・エニックスの三宅陽一郎氏が報告しました。
はじめに三宅氏は昨年度のふり返りから講演を始めました。それによるとGDC2015では内製ゲームエンジンの解説と、その上で実装されたゲームAIの講演が中心でした。しかし今年はゲームエンジンの解説は限定的で、その上で動作するAIや、ゲーム作成事例の話がメインだったといいます。
一例として紹介されたのがUBI SoftのFPS「The Division」のゲームAIに関する講演「Blending Autonomy and Control: Creating NPCs for “Tom Clancy’s The Division”」です。
本ゲームAIは同社の内作エンジン「Snowdrop Engine」上で実装されています。ゲームAIはパス検索や位置解析などをつかさどるナビゲーションAI、個々のNPCの自律的な判断や協調作業などをつかさどるキャラクターAI、ゲームの流れを作るメタAIという、それぞれ機能が異なる3種類のAIの組み合わせで構成されています。
その上で本AIの特徴として、三宅氏はマップに対してメタAIの機能が組み込まれている点を上げました。
本作ではマップ上に遮蔽物の位置が明確な形で設定されており、各々の脅威度がリアルタイムで計算されます。そして各々のNPCが確認する周囲の情報に加えて、「特定のポイントに移動しろ」「カバーをとれ」「スキルを使え」といった、スクリプトで記述されたマップからの指令が組み合わさり、NPCの行動が決定されるのです。
このメタAIの機能は Visual Scripting と呼ばれる、ノードベースで実装されています。また、このNPCたちの知能は「Behavior tree」と呼ばれる、ノードベースのGUIツールで実装することができます。そのためゲームデザイナーがエンジニア不要で記述でき、デバッグも容易に行えます。
また今年の特徴として、三宅氏は「ゲームエンジン上でのゲームAIを用いたデータの自動解析」をあげました。
中でも「HALO5」では、ユーザーがオンライン対戦でキルされた場所をサーバ上のログデータから自動収集し、それをヒートマップで表示することで、ゲームバランスの改善に役立てられているといいます(「Making “Big Data” work for HALO: a case study」より)。
また前述のSnowdrop Engineでは、ゲームエンジン上に流れるさまざまなデータを収集し、市販ツールと組み合わせて可視化することが可能だといいます(「Unifield Telementry, Building an Infrastructure for Big Data in Games Development」より)。同社では「GearStudio」「Kibana」といった市販ツールをデータ解析に活用しているとのことです。
これによりコストがかかるトラッキング作業を必要最小限におさえて、必要な情報が入手可能になったとしました。
最後に三宅氏は総括として、「現行のゲームAIが成熟期を迎えており、AAAタイトル上でさまざまな形で実装されていること」と、「今後はデータ解析への活用が見込まれ、これをもって現世代におけるゲームエンジンが一つの完成形を迎える」と分析。その上で、これらの技術がVR/ARコンテンツ開発の土台として活用されていくのではないかと指摘しました。
(小川浩史)