SIG-Audio#12効果音制作ベストプラクティス(後編)レポート記事

サウンドクリエイターによって様々なアプローチ方法がある効果音作成。第一線で活躍されているサウンドデザイナーはどの様に音を作り上げていくのでしょうか。

今回NPO法人IGDA日本は、12月3日にSIG-Audio第12回勉強会「効果音制作ベストプラクティス(後編)」を開催しました。講師に株式会社タイトーサウンドチームZUNTATA所属の石川勝久氏と、株式会社ATTIC INC. サウンドプロデューサー/代表取締役の中條謙自氏を講師として迎え、両氏が持つ効果音作成のノウハウが語られました。

【音の交通整理】

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石川勝久氏

1990年に株式会社タイトーに入社した石川氏は、効果音専門のクリエイターとして、「メタルブラック」「ダライアス」「サイキックフォース」シリーズなど、同社を代表するタイトルに携わってきました。その一方、サウンド開発部門の総称である「ZUNTATA」のマネージャーとして、プロモーションも担当しているサウンドデザイナーです。

「シューティングゲームサウンドの作り方」と称して、最新作「ダライアスバースト クロニクルセイバーズ」を事例に話を進められた石川氏。

シューティングゲームの効果音の大きな特徴として、とにかく音数が多く、しかも同タイミングに鳴る音が多すぎる点があると言います。BGM、自機ショット音、ショット相殺音、エネミーダメージ音、エネミー爆発音、エネミー攻撃音、アイテム取得音、特殊攻撃音(ビーム)等などです。

これら全てを同タイミングで鳴らせば、たちまちハードの発音数限界に達し、プレイヤーが各サウンドの識別ができなくなるといった大きな問題に直面します。そのため「音の交通整理が必須だ」と石川氏は続けました。

では、音の交通整理とはどのように行っていくのでしょうか?  石川氏は、聴いて欲しい音を、音量や発音優先で差をつけるといいます。

「ダライアスバースト」では、BGM→ボス爆発音→アイテム取得音→エネミー爆発音→エネミー攻撃音→自機ショット音というように、優先順位がつけられました。

ベースとなるのは「鳴らないと違和感がある音」「まれに鳴らない事があってもいい音」「何度もトリガーされるので多少鳴らなくても違和感がない音」といったカテゴリ分けです。「コイン投入によるクレジット音は必ず聞こえる様にする」といったアーケードゲームならではの注意点も付け加えられました。

ここで意外なのが、自機ショット音はそれほど重要ではない点です。最近のシューティングゲームは連射が一般的な為、ショット音の再生をフォローしすぎると帯域が全部奪われてしまうため、むしろ優先度は下げた方がいいといいます。このように、昨今のシューティングゲーム事情を踏まえたうえで注意点を述べられました。

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また効果音の後半に、音としての「おいしい」部分があったとしても、様々な音が鳴るこのゲームジャンルでは、他の音によってかき消されている恐れがあります。そのためシューティングゲームの効果音ではアタックが重要だと補足されました。アタックを工夫すれば他の音が鳴っていても、各音の判別がつきやすいといいます。

石川氏は愛用のソフトシンセ「Beam2002」とミドルウェアの「CRI ADX2」を用いて、アタックを意識した効果音の作成についてデモを行いました。ランダマイズ機能によって、ランダムで効果音を生成できる機能を活用し、Longの項目で音の長さを調整したり、波形の出音を自由に変更するなどして、効果音が作成されていきます。

また、効果音を作成するだけでなく、適切な管理を行う必要性も発生します。

石川氏がライブラリ管理に使用しているツールが「MUTANT」です。「MUTANT」で登録されたライブラリ群は、メモ書きのキーワード検索にも反応するため、ソートされた音を素早くプレビューすることが可能です。目当ての音を素早く探し当て、そのまま別ソフトにドラッグすることで、クイックに編集を行うことも可能だと語られました。

最後に石川氏は、「ダライアスバースト」での代表的な攻撃方法、バーストビームをどの様に作成していったのか、その過程を紹介しました。効果音専用のソフトシンセ「UVI Xtream FX」で作成した音を編集ソフトに配置し、音の厚みをつける為、「MUTANT」のライブラリから音素材を重ねていくことで、シンプルだった音に厚みや重厚感が加えられていきます。

他にビーム音といった、比較的長い効果音の作成手順についても紹介されました。このように石川氏ならではの取り組み方がふんだんに披露され、講演は終了しました。

【正解も不正解もない】

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中條謙自氏

中條氏は株式会社コーエーテクモゲームス時代に「戦国無双」「討鬼伝」シリーズといった、同社を代表するタイトルのサウンドディレクターを歴任。2013年7月にサウンドプロダクションATTIC INC.(アティック・インク)を設立後は、CEDEC、GDC、AESなど各種のカンファレンスにおける講演活動の他、アーティストとしても活動するなど、ゲームオーディオの枠に囚われないサウンドプロデューサー&クリエイターです。

効果音作成と一言でいっても、人によってツールやノウハウ、アプローチは様々です。ましてや教則本もマニュアルも存在しない、言わば正解も不正解もない状態で、本セミナーで何を語るべきか。辿り着いた答えが、普段使用しているソフト、プラグイン、手順等を、全て見せてしまおうと思ったといいます。

効果音作成だけではなく、レコーディング、ミックス、ボイス収録/編集も行われている中條氏。ほとんどの作業をオーディオ制作プラットフォームの「Pro Tools」で行っています。

また中條氏は「効果音を作成していくうえで、効果音素材集を使用する機会が多いと思われますが、素材集によっては、音質の違い、シンセサイザーの違い、マイク収録の距離感の違いでといった、様々な音質の食い違いがあります」と補足しました。

そこで活躍するのが、McDSPの「Analog Channel AC101」プラグインです。アンプヘッドシュミレーターである本プラグインを通すことで、音の方向性に統一感が生まれ、総合的に聴き比べても、明らかにクォリティが変わっていくと語られました。

次に紹介されたのが「WHOOSH DESIGNER」「RISE DESIGNER」「IMPACT DESIGNER」といった、擬音作成に適した効果音生成のプラグインです。擬音(光線銃の発射音など)は実際に存在する音ではないため、ゼロからイメージに適した効果音を作成することになり、難易度が高くなります。しかし、本プラグインを使用することで、デフォルトでアサインされている音をパラメータで編集しながら、比較的容易に作成できるといいます。

周波数の設定、SHIFTERの上昇や下降、FEEDBACKによる上下の振り幅といった設定ができるプラグイン、「AIR Frequency Shifter」も紹介されました。中條氏は本プラグインを用いながら、「ピー」という単音からパラメータの調整を繰り返しながら、ゲームの効果音を作り出していく過程を紹介しました。

様々なソースやツールを用いて音素材を作成し、プラグインやサイドチェイン機能を活用して音素材を加工/合成し、細部を調整。こうして準備した効果音の素材を「Pro Tools」上に集約させ、ブラッシュアップさせていく一連の流れを、セミナー参加者に披露した中條氏。

冒頭に語られた「全て見せる」といった言葉どおり、ふだんの仕事ぶりの一端を垣間見ることができたセミナー参加者から、おしみない拍手が送られました。

文:小川浩史

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