ゲームを構築するうえで重要な要素となるサウンド。では現場で活躍中のサウンドデザイナーは、どのような意図や方向性を定めて、音作りを行っていくのでしょうか。
NPO法人IGDA日本は、11月13日にSIG-Audio第11回勉強会「効果音ベストプラクティス(前編)」を開催。株式会社バンダイナムコスタジオの中西啓一氏と、ソノロジックデザイン代表の牛島正人氏という現役サウンドクリエイターを講師として迎え、効果音の基本的な知識および制作ノウハウ、ツールを駆使した制作のヒントが共有されました。
【大切なのは目的を果たしているか】
旧ナムコ(現バンダイナムコスタジオ)に入社した中西氏は、「ACE COMBAT」「RIDGE RACER」シリーズといったコンシューマータイトルから、「ドリフトスピリッツ」などのモバイルゲーム、VRコンテンツの「サマーレッスン」、そして「リアルドライブ」といったアーケードゲームまで、幅広い作品制作に携わっているサウンドデザイナーです。
まず中西氏は自身の効果音作成スタンスから説明しました。
中西氏が重視するのは「すでにある」「すぐに見つかる」といったサウンドライブラリの充実と、「すぐに作れる」「楽に作れる」といった、オーダーメイドに対応できる柔軟性確保の両立です。これによって得られる時間で、サンプリング以外の表現方法確保に時間を費やしたいといいます。
また効果音の存在意義として「答えは無限、解釈は自由だが、大切なことは目的を果たしているか」と、中西氏は問いかけます。
その効果音は何を伝えるのか、どんなシチュエーションか、どの程度聞いてもらわないといけないのか、その定義によって設計や作り方に大きく影響すると語りました。
中西氏がメインで使用しているシンセサイザーは「Native Instruments MASSIVE」と、「Spectrasonics Omnisphere2」で、それぞれ「ゼロから音を作成する場合」「リッチな響きを作成する場合」といった様に、ケースによって使い分けられています。
ただシンセサイザーは変わっても、音の組み合わせ、音調調整、音程変化といった作業工程は変わりません。また作業中に偶然生まれた「いつかは使えそうな効果音」はMIDIやオーディオ、Presetとして、記録は欠かさないと強調します。
最後に「ループポイントの見定め方」「ループポイントを目立たなくさせるテクニック」「ループノイズを目立たせないコツ」などが紹介されました。効果音だけではなく音楽の場合の事例についても補足されました。
ツールと効果音サンプルを用いた実演デモも行われました。その際に「ループエンド以降のデータも保存しておくと、また別の機会で必要になるかもしれない」と、現場スタッフならではのアドバイスも送られました。
【シンセ以外からの電子音生成の提示】
牛島氏はバークリー音楽院MusicSynthesis学科で音響理論・音楽理論を習得後、効果音製作会社で遊技機やゲームなど50タイトル以上の効果音制作に従事。2015年にソノロジックデザインを立ち上げると、ゲーム業界のみならず遊技機・アニメーション・CM・PVなど、幅広くサウンドデザインに携わっているフリーランスサウンドデザイナーです。
牛島氏もまた、シンセサイザーから効果音を作るケースが一般的だといいます。そのうえで今回は波形エディタ「SoundHack」のPhase Vocoding機能を使用して、一般的なシンセサイザーとは違った電子音を生成するアイディアを提示したいと語りました。
ここでの主旨は解析情報から音を調整することで、生音からの周波数変化に沿った人工的な音の生成を行うことと、デジタル信号処理の基本理論を理解することで、新しいツールを使用する際でも効果音調整のイメージを掴みやすくすることの2点となります。
牛島氏は実際にサンプル音源を使い、ツール上で音情報のパラメータの調整を行い、どの様に音の変化が生じるかについて、実演を交えながら紹介していきました。
最後に牛島氏はFPSやTPSといったゲームで使用される銃声の効果音作成を、MassiveとPhase Vocodingの組み合わせで紹介しました。
このような場合、しばしば「銃声で迫力が足りない」「音の情報が少ない」といった問題点が発生しがちです。牛島氏は「何が足りないのか」「周波数をどう増やすのか」をしっかりと考え、不足要素を補うことが重要だといいます。
具体的に牛島氏は、高域・中域・低域といった周波数軸と、Attack・Decay・Releaseといった時間軸の、3×3のブロック表を頭に描きながら、各項目の要素を埋めるように音作りを心がけると話していました。
ところが、作成し終わった効果音を実際のデモゲームに差し替えて試そうとしたところ、ブルースクリーンが発生するというアクシデントに見舞われてしまいます。
しかし、一つのシンセサイザーから周波数ごと(=目的ごと)に音をバラバラに作成していき、ゲームに集約する流れが見られたことで、参加者は十分に満足できたよう。おしみない拍手が送られ講演は終了しました。
約120名の参加者を数え、大好評のうちに終了した本セミナー。後編となるSIG-Audio #12は12月3日に開催予定です。
文:小川浩史