NPO法人IGDA日本SIG-ARG謎解き分科会は「謎解きイベントカンファレンス2015夏」を7月6日、東京カルチャーカルチャーで開催しました。カンファレンスは二部構成で行われ、第一部では謎解きイベントの現状を語る講演とパネルディスカッション。第二部では参加者同士の交流会が行われ、50人近くの業界関係者やクリエイターでもりあがりました。
SIG-ARG謎解き分科会は近年、急速な盛り上がりを見せている「謎解き系イベント」を対象に活動する分科会です。会の代表をつとめ、自らも通算919件の公演に参加してきたという「謎制作者」の南晃氏は、「これまで関係者向けの私的な交流会を実施してきたが、業界の発展のためにカンファレンスを併設して、一般参加可能にした」と挨拶しました。
カンファレンスでは南氏の基調講演に続いて▽情報サイト「なぞまっぷ」管理人のぎん氏による「データで見る高校の謎解事情」▽謎解きグローバルコンサルタントの山肩大祐氏による「海外と日本、謎解きゲームの比較と検証」ーーという講演が行われました。その後、読売テレビエンタープライズで数々の謎解きイベント制作にかかわり、SIG-ARG副世話人もつとめる田中宏明氏を加えて、業界の現状をテーマにディスカッションが行われました。
◆基調講演〜南晃氏
SCRAP社が展開する「リアル脱出ゲーム」をはじめ、全国にブームを巻き起こしている謎解きイベント。南氏は2011年には1500万円だった市場規模が、2014年には100億円に急成長し、2015年には400億円に達すると推計します。公演形態も多様化しており、タイアップなどの広がりや、テレビや広告での露出が増加しているとのこと。「黎明期を脱して、成長期から安定期に入りつつあるが、ここで衰退する危険性もある」と分析し、中でも制作者不足が深刻だと問題提起しました。
また謎解きイベントについて定義がなく、関係者によっても意見がまちまちなのが現状だと言います。そのうえで南氏は「能動性・課題解決性・情報分析性」という三要素に加えて、「最後に成功判定があるもの」という独自の定義を披露。イベントの最初に「部屋を脱出する」といった究極の目的が参加者に対して提示され、最後に成功・判定が明確に判定される点が特徴で、これが急速に広まった理由ではないかと分析しました。
◆データで見る高校の謎解き事情〜ぎん氏
続いて情報サイト「なぞまっぷ」管理人のぎん氏が、Twitterのツイートをもとに独自集計した、高校生の謎解きイベント体験の現状について講演しました。ぎん氏は高校の文化祭で謎解きイベントが急拡大しており、2012年にはわずか4件だったものが、2014年には176件になり、2015年には700件近くに達するという分析を披露。もっともTwitterのタイムラインに出てこないものもあり、実態はさらに上振れするだろうといいます。
ぎん氏はブームの背景として▽「リアル脱出ゲームTV」をはじめ、謎解きイベントがテレビ番組で取り上げられたこと▽文化祭を通して口コミで広がったこと▽商業イベントが高校生にとって高額(平均3000円)で、文化祭などの無料公演に流れやすいことーーなどと分析しました。実際、ここ数年で「文化祭が文化祭をよぶ」状況が広がっており、2015年度は全国で7万人の高校生が体験するのではというほどです。
もっとも公演制作や運営方法などのノウハウは圧倒的に不足しており、実際にヒアリングしたところ「プロの制作者に質問したい」「制作フローのモデル化が欲しい」などの声が聞かれました。また今後は「謎解き(制作)甲子園」などのように、社会人が適切にかかわることで、ブームを活性化できるのではないかと指摘。業界の未来のためにも、高校生クラスターを育てていく重要性を指摘しました。
◆海外と日本、謎解きゲームの比較と検証〜山肩大祐氏
謎解きグローバルコンサルタントの山肩氏からは、タイのバンコクとルーマニアのクルージュ・ナポカでサービスされている謎解きイベントの参加体験記について報告がありました。バンコクは人口800万人の大都会、クルージュ・ナポカは同国の北西部にある人口64万人の地方都市で、それぞれ特色あるイベントが開催されていたといいます。
バンコクには世界13カ国25支部に展開する世界最大級の謎解きイベント主催団体、THE ESCAPE HUNT EXPERIENCEがあります。ショッピングモールなどで常設運営されており、プレイ時間は60分で金額は1人600-900タイバーツ(約2000円)が主流。室内から脱出するもの以外に、モール内を探索して爆弾テロを防ぐ周遊型コンテンツも体験できました。
一方クルージュ・ナポカではマンションの地下室などで運営されており、予約が入った時だけスタッフが向かうスタイル。プレイ時間は60分で金額は1グループ100ルーマニア・レイ(約1000円)が相場で学割も実施。ギミックが満載された部屋で実施され、「THE MUSIUM」というコンテンツでは、レーザー光線を鏡などで誘導し、宝石に導くなどの仕掛けも楽しめたとのこと。
山肩氏は最後に「日本の謎はストーリー要素が強く丁寧に作られており、スタッフによる明示的な誘導は少ないが、謎の言語依存性が高い」「タイ・ルーマニアの謎は大ざっぱでスタッフによる誘導が前提となっており、アトラクションを楽しむ感覚だが、謎の言語依存性が少ない」と分析。それぞれに違った楽しさがあるとまとめました。
◆座談会〜田中宏明氏を加えて
最後に出席者一同による座談会も行われました。トピックは多岐にわたりましたが、整理すると謎解きイベントが一般化し、参加者のすそ野が広がる中で発生してきた参加者間のトラブルや業界的な問題(リピーター問題、ネタバレ問題、批評家の不足、制作費の高騰による二極化)に対して、どのように対処していくかという点がテーマとなりました。
中でもリピーター問題については、アニメ「進撃の巨人」とコラボしたイベントでコスプレ目的のリピーター参加者が見られたなど、コンテンツの性質によってはリピーター前提でデザインする必要があるというコメントが印象的でした。また版権モノのコンテンツでは声優費や映像代などでコストが増大し、肝心の謎制作費が疎かになっているのでは、という指摘もありました。
このほか業界団体の設立を求める声や、市場の拡大のためにはコンテンツのさらなる多様化が必要だという意見、クリエイターの数を増やしていくことが重要だという声もありました。最後に南氏が「作り手がいなくなれば業界がなくなるので、皆さん作り続けましょう」と挨拶。今回は非常に有意義なディスカッションができたとして、2016年春に次回のカンファレンス開催を宣言して終了となりました。