書評「続・インタフェースデザインの心理学」

オライリージャパンから書籍「続・インターフェースデザインの心理学」を献本いただきましたので、SIG-Board Game正世話人の金山大志さんに書評をお願いしたところ、骨太な内容の記事が上がってきました。オライリージャパン様、金山さん、ありがとうございました。

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本書は、前「インタフェースデザインの心理学」と同じく、心理学的見地からインターフェイスについての指針を提示するものです。

もっとも前書から続けて読まなければならないということはなく、前書がデザインに直結する、特に視覚がもたらす効果についての知識を提供していたのに比べて、本書はよりユーザーの心理や行動の引き出し方、制作者の創造性を高めるヒントなどを中心に、単体でも非常に読み応えのある価値のある内容になっています。

一般的なTips本やデザイン集とは違い、デザインに触れたユーザーに対して、

・どういった効果をもたらすのか
・どういった捉え方をすると考えられるのか
・どういった心理・行動に結びつくのか

といった、インターフェイスがもたらす真相を突き詰めて指針をもたらしてくれる良書です。

Webページなどを含めたインターフェイス全般をターゲットにしているので、ゲームにおいては読者が適宜当てはまる事例を置き換えて理解する必要がある点は注意が必要です。しかし、何といっても本書の本質的な価値は、行動学的知見のなかでもインターフェイスデザインに有益な情報を頭の引き出しに入れておける、ということに尽きると思います。

特に、昨今はスマートフォンアプリからコンシューマー、PCゲームまでアップデートによる改修が当たり前になっていて、一度リリースしたインターフェイスも、導線整理や新たなコンテンツ追加への対応といった理由で、改修する機会が多くなっています。そのため、以前よりも相対的にインターフェイスをデザインする需要は高まっているのではないでしょうか。

そんな中で私が実際に過去携わった幾つかのタイトルでは、後述のような悩みがありました。同種の経験をされたゲームデザイナーさんは多いのではないかと思います。

・使いやすいはずだ!とインターフェイスを改良しても、ユーザーにうまく伝わらず活用してもらえない。
・機能性を重視してまとめたインターフェイスが、情報過多で読み飛ばされてしまう。
・想定しない導線からインターフェイスを開くなどでユーザーに不便な思いをさせた。
・見て欲しいもの、伝えたいものの有用性を適切に伝えられなかった。

これらの悩みも、やみくもに設計したインターフェイスや、想定不足によって発生したものばかりではなく、データを取り、想定を立て、ユーザーにより良い体験を提供したいとの思いから改修したものが、結果として逆効果になってしまった場合がありました。あの時に本書の知識があれば…と思うことも多いです。

そもそも分析のためにデータを取るにしても、事象が発生している要因が知識の範疇でなければ、なかなか見つけられないものです。本書を一通り読み終わるまでにいくつも、「そういった心理が発生してしまうのか!」「そういった記憶のされ方をしまうのか!」といった目から鱗な知識がありました。

他にも本書は、同じチームで仕事をするスタッフの能力を引き出すためのヒントになるような内容についても触れています。これについては経験を積む中で施験者の立場も被験者の立場も経験し理解していくことが多いのですが、文書化されて事象を説明してもらえると、これからゲームデザインやチームを率いる仕事を志す制作者への教育や、ノウハウの継承という意味でも、とてもありがたいものです。

行動学や心理学というと難解な内容を想像するかもしれませんが、平たく言うと人が何を感じ何を思いどう行動するのかという、専門家が何年もかけて学び研究してきた多くの知識を、1冊を通して理解することができます。

より良いコンテンツ、ユーザーのより良い体験を今後創造し続ける手助けに、書棚と頭の引き出しに本書を加えてみてください。

金山 大志(SIG-Board Game正世話人)